『春告げ鳥の行方』

青谷因

~introduction・春告鳥の行方~

そう言えば。


鶯は何処へ行ったのだろう?















春の花々が、あちこちで咲き始めた頃に。


若い鶯のぎこちない鳴き声をいつも、もどかしく聴いていた。




まったくいつになったら、上手にさえずることが出来るのかと。


時折。


予想以上に調子っ外れな声に思わず、噴出しながら。





いつしか季節は。


まとう衣を少しずつ、はがしていく。




そうして気が付けば。





昼夜には、蛙と蝉たちの大合唱が響き始めているのだ。




その頃になると。




彼らのさえずりはもう、私の耳には届かなくなっている。








めぐり来る夏にいつも、思い馳せることは。



彼らは何処へ行ってしまったのか。そして。



彼らは上手に


“ほう、ほけきょ”と。


春を告げることが出来たのだろうかと。






はたして、彼らは満足して山へ帰っていったのか。或いは。










ままならぬままに。


蝉たちの声にその存在すら、掻き消されてしまったのではないか、と。




(了)

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『春告げ鳥の行方』 青谷因 @chinamu-aotani

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