4月1日

たぬきたけき

始まりの章

 私の名前は四月一日(わたぬき)。そう、エイプリルフールが名字なのだ。

 その影響か嘘をつくのが昔から得意で、いつも少しずつ嘘を織り交ぜながら会話するのが癖になっている。

 手相や占いによれば、まじめで誠実な人とでるが、私は嘘つきだ。

 嘘は素晴らしい。笑いが起きる。人に同情してもらえる。人が周りに集まるのだ。

 

 そんな私が、あの日を境に嘘をつくのをやめたのだ。

 嘘は醜い。悲しい。人から恨まれる。人が離れていく。

 今日は皆さんにそんな私が変わった不思議なエピソードを話してみたいと思う。


 「おはようございます。」

 その一言で私の一日の業務が始まる。

 「最近、夜眠れなくって…。ストレスかなぁ…。」

 そう言っておけば上司から無理な仕事が来なくなることを私は知っている。

 そう、こうやって毎日少しずつ嘘を積み重ねて生きているのだ。

 

 「大丈夫?課長、ノルマに厳しいからなぁ~。」

 そう言って私を気遣ってくれる人が多い。

 わかっているのだ。嘘をつけば人は優しくしてくれる、と。

 ただし、嘘をつきすぎたら嘘はバレる。

 だから、ほんの少しの嘘を毎日ほんの少しずつつき続けることでホントと嘘がわからなくなるようにカモフラージュしているのだ。

 

 「お昼ご飯何食べようかなぁ~?お金ないからうどん食べようかなぁ~?」

 「お?四月一日、飯まだなら一緒に行くか?もちろんごちそうしてやるよ!」

 「いいんですか~?ありがとうございます!」

 こうやって食費を浮かせて好きなアイドルにお金を貢ぐ。我ながらいい節約術だ。

 

 「あぁー!もうこんな時間!今日はお兄ちゃんと約束があるのに!」

 「ん?急ぎの用事か?あとどれぐらいだ?なんだ、それぐらいなら俺がやっとくよ。」

 「えぇー!いいんですかー!ありがとうございます!」

 そうやって気分が乗らない時は早く帰るのだ。

 

 「あっはははは!」

 早く帰れた日はくだらないバラエティーを見て、ストレス解消する。

 それが私の日常だ。


 そう、あの日までは。

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