地獄の執事

@ani0401

第1話地獄の執事

 「死んでいく」

 日本語的におかしいよ。一昨日咲に指摘されたのを、思い出した。

 屋上から落ちた私の身体は、グングン速さを増していく。耳にシューーーーーと音がする。風を切る音。四階分の高さを落ちる私は、速さとは逆にスローモーションの世界を見ていた。

 誰もいないグラウンド。そこに引かれた白線がよく見える。誰かの足跡がついている。死ぬとき見るのは、走馬灯だと思っていた。でもそれは思い違いで。

 私の目の前には、

        ただ、

          ただ、

 現実が広がるばかりだ。 

                             ぐちゃ。

 身体が流れていく。真っ黒な川を流れていく。川と認識したのは、肌に触れる感触が水を触るのと同じだったから。目を開けないでも、なんとなくわかる。

 死ぬってこんな感じなのか。なんかもっと天使とかが迎えに来てくれるものだと思っていた。それに、あれ、えーーーと、そう! 幽体離脱! あれもして見たかった。四階から落ちた私の身体は、どうなっているのだろう。やっぱぐちゃぐちゃかな? 内臓とか飛び出してたりして…… あ、気分悪くなってきた。やめよう。

 それにしても短い人生だった。まさか中学三年生で、我が人生に幕を下ろすとは。我が人生に一遍の悔いなし! なんて自信をもって言えないけど、まぁ私にしてはよくやったよね。あの場で言えた私は偉いよ。ほんとに。いやぁ~本当にあっぱれ! よくやった私!

 ………

 うん

ほんとによく、……

 やったんだから。

 手を握って、水の感触を確かめた。それは私の手には収まらず、するりと抜けて先に行ってしまう。このままずっと流れていくのかな。それはそれで良いけど。

 不意に闇の中に、小さな光が見えた。いや実際は見えていないのだけれど。目を閉じているのに、それはハッキリと私に近づいてくる。光は、私を包んではじけ飛んだ。


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