勇者の弟なら世界ぐらい救ってみろ
あさやん
序章 ある勇者の物語
そこは最後の戦いの地であった。
星一つのない暗黒の空を照らす程、炎が燃え盛る大地の上に彼はいる。
幾多の犠牲を払い、彼らは辿り着いた。
自分達の長い旅を終わらせる為に。
「はぁ……! はぁ……!」
この戦いを始めてどれだけの時間が経っただろう?
満身創痍――最後の敵による猛攻に彼の体はボロボロだった。額から流れる血は止まらず、あらゆる攻撃を防ぐ鎧も敵の死力を尽くした攻撃で亀裂が奔り、今にも膝が折れそうになる。
だが彼は決してその膝を突くことはない。
自分の後ろには、これまでの苦楽を共にして来た同胞達が横たわっているからだ。
彼らを見殺しになどできない。
「まったく……勇者ってのは、損な商売だ」
自嘲し、ボヤく。
このまま彼らを見捨てることができればどれだけ楽か?
そんな考えが頭を過ぎらなかったといえば嘘になる。出会った頃は最悪だった。旅の間に何度も揉めた。時には本気で戦い合った。大切な仲間、などという綺麗な言葉では到底表せられないが、確かな絆が彼らの間にはあった。
「とっとと終わらせて隠居生活を送りたいものだな」
未だ光を失わぬ黄金の剣を構える。
少しでも気を抜けば抜けてしまいそうな剣を持つ手に、そっと別の手が重ねられる。
目を見開いて真横を見る。
少女がいた。
絶望的なこの状況の中、少女の瞳には未だ希望の灯が宿っている。
「行こう」
少女もまた、満身創痍の身でありながら立ち上がり、共に剣を握ってくれた。
共に激戦を潜り抜けた仲間であり、旅の中で惹かれ合い、そして最後までこうして共にいてくれる少女の短くも強い言葉を受け、彼は眼前の敵に力強い笑みを浮かべて言い放つ。
「悪いな。俺の幸せな新婚生活の為に倒させて貰うぞ……魔王」
それは良くも悪くも、どこにでもある正義の勇者が、悪の魔王を倒すという物語である。
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