第76話 オーパーツでも動けばよし!

 翌日。魔術士ギルド本部で白金貨十二枚を間違いなく受け取った私たちは、大通りにある魔導具店……ではなく、ディオラさんに連れられて、北区の北西へと向かっている。

 ディオラさん曰く、


「大通りの店は見栄え重視で普通のものしか置いてないわ。ミシャが使うなら、ちょっと癖のある尖った物の方が良いでしょ?」


 とのこと。

 ちなみに、ディオラさんの研究グループの一人で巨人族のお兄さんらしい。


「鍛冶屋さんではないんですよね?」


「ええ、ここに住んでいるのだから当然魔術士よ。彼は小さいものに魔法付与するのが得意なのよね」


 巨人族なのに細かいことが得意なのか……

 自分の体の大きさからくる反動とかなのかな?


「ねえねえ、強い人?」


「強いんだけど性格が大人しくてね。大人しいっていうか……乙女?」


 これはお約束的なゴツい乙女が出てくるパターンなのかな。

 失礼の無いように心の準備をしておくか……


「さっ、ここよ」


 パッと見は普通の……いや、随分と可愛らしいお店。フリフリ系ではなくメルヘン系? 童話に出て来そうな、でも、妙にサイズが大きい。

 そうか、周りは二階建てなのに、この店だけ大きな一階建てなんだ。


 ディオラさんが大きな扉を開くと、チリリーンと可愛いドアベルが鳴る。

 私やルルの倍ぐらいの高さがある扉を潜ると、中もそれはそれはメルヘンな空間が広がっていた。


「……可愛いな」


 ディーがぼそっと呟く。あれ? 実はメルヘン系が好き?

 ディオラさんを除いた私たちがあちこちを見ていると、カウンターの奥から背のかなり高いお兄さんが現れる。


「いらっしゃいませ。と、ディオラ先生とそちらは……」


 何この美少年。巨人なのに線が細いとか神の悪戯ってやつ?


「この子たちはマルリーの傭兵ギルドに所属する子たちよ。今日はこのミシャって子の杖を探しに来たのよ」


「なるほど。それはありがとうございます。でも、普通のものでなくて良いんですか?」


「普通のが必要だったらここに来てないでしょ」


 大きい美少年が苦笑し、私たちに席につくように促す。

 隅っこにテーブルと椅子が置かれていて……普通のサイズだったのに安心して座る。


「お茶をお持ちしますね」


 そう言って奥へ行って戻ってくる手にはトレーとカップがミニチュアのように乗っていて、目がおかしくなったのか錯覚しそうになる。

 お茶を置き終えた後は、自分用の大きな椅子を持ってきて、少し離れた場所に座った。


「改めまして、この店の主人、ディオラ先生の弟子のマルセルと申します」


「ルルだよ!」


「ミシャです」


「ディアナです」


「ワフッ!」


 それぞれの挨拶にニッコリと微笑んでくれるマルセルさん。

 巨人美少年、でも、可愛い物好きとなかなか……確かに変人が多いって言ってましたね。


「さて、それでどのような普通ではない杖をお求めでしょう?」


「とにかく、魔素をたくさん貯めておけて、でも、重くないものがいいわね」


「なるほど。お値段が張りますが……」


 チラッとこちらに確認の目線が来たので私が答えようとしたら、


「白金貨二枚! オーバーしても良いよ!」


「ちょ、ルル?」


 そのやりとりにマルセルさんが驚いている。

 いやまあ、そんな金額がいきなり出てくると思ってないよね。


「この子たち、こう見えてルシウスの塔の最上階を突破するような子たちなのよ。あなたも噂は聞いてたと思うけど」


「え、ええ、聞いてましたが……みなさんがとは驚きですね。あ、いや、良い意味でですよ?」


「いえいえ、気になさらず。自分たちでもちょっと驚いてるぐらいなので」


 あれはエリカもシェリーさんもいたしね。

 というか、噂ってなんなの? 今この街にいるよって程度の話ですよね?


「で、ミシャならアレを持てるんじゃないかと思ってね」


「ああ、アレですか……。では、ちょっと取ってきますね」


 アレ? まあ、白金貨が必要なレベルの杖だし奥にしまい込んでるんだろう。

 それが白金貨二枚以上するんだったら、ちょっと考え直さないとなんだけど……


「ねえ、ルル? 白金貨一枚ぐらいって話だったでしょ?」


「ダメー。ミシャは遠慮しすぎだから良いの!」


 無駄な抵抗をしてみるが分が悪い。

 ディーもディオラさんも、高いもの買って何が悪いの? って感じだし。


「お待たせしました」


 マルセルさんが戻って来たのはいいんだけど、杖が思ったほど大きくない……

 いや、違う。彼が大きいからそう見えるだけだ!

 ディオラさんが目で促すので、席を立ってそれを受け取った。


「ん? 意外と……」


 真っ直ぐ持つと私の身長を少し超える長さがある金属の棒。鉄でも鋼でもないような……

 長杖ロッドと呼ばれるそれの頂上には青く透き通ったピンポン玉サイズの宝石? 装飾にガッチリと咥え込まれているのが渋い。


「ミシャさん、重くないですか?」


「ええ、不思議ですね。前の短杖ワンドよりも軽いかも?」


「はは……」


「こういう子なのよ……」


 苦笑いするマルセルさんと呆れる様子のディオラさん。

 何がどうなっているのかさっぱりわからないんだけど?


「ディアナ。あなた試しにそれを持ってみなさい」


「は、はい」


 伯母の命令には逆らえない感じ。まあ親族だものね。

 ディーが慌てて私のところまで来たので、長杖ロッドを渡すと……


「うわっ!」


 それを両手で必死になって抱えた。というか一緒に倒れないように必死に見える。

 は? ああ、ひょっとしてディーのちょっとしたギャグ的な……


「次、ボク!」


 ルルがディーからそれを奪ってグッと持ち上げた。


「うわあ、これってマルリーさんの大楯ラージシールドぐらい重い……」


「え? いやいや、すごく軽いでしょ」


 私がルルからそれを奪い、二度三度と持ち上げてみる。

 うーん、総アルミってぐらいの重さ? もっと軽いかも? 金属に見えつつ実はプラスチック製とかでも驚かないかな。

 その分、頂上に綺麗に抱かれた宝石の重さはよくわかる。


「ミシャ、それ、非常に重かったんだが……」


 ディーが真顔だ。多分、本当なんだろう。と、いうことは、ルルも自前の筋力+身体強化で持ち上げていた? でも、私にだけは軽く感じられる?


「三人は『白銀の盾』の所属なんだし、マルリーが持ってる金庫のことは知ってるわよね?」


 ディオラさんの言葉に、ルルもディーも、そして私もその「不思議な金庫」のことを思い出した。

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