第60話 変な人はだいたいふらふらしてる
「さあ、この先だ」
ディーが若干うきうきで話すのは、私たちを見かけたエルフがみんな、クロスケを見て平伏してるからなの?
ドワーフのルルを見て驚いて、その後でクロスケを見て更に驚いて平伏するまでがワンセットになってて「エルフ大丈夫なの?」って気になる。
「ワフ?」
クロスケが「どうしたの?」って感じなので、心配いらないよって頭を撫でてあげたら、それはそれでまた「おおー!」とかなってるし……
とりあえず気にしてもしょうがないと諦めて進んでいたら、その先に一軒のログハウスっぽいものが現れた。
ここに来るまでもいくつか見かけたけど、エルフの家って大樹と組み合わさるように作られてて、凄いなって思う。自然とともに生きてます感。
「ここだ。さて、母上はいると思うのだが」
鍵とか掛かっていないらしく、ためらわずに玄関扉を開けるディー。
「ただいま」
すぐに中に入るのはどうだろうと思い、私たちは玄関前で待機。
すると奥の方から声が聞こえてきた。
「はーい、どなたかしらー。あら、ディアナ。帰ってきたの?」
「ええ、一泊してまた出かけますが、友人を連れてきたので泊めてください。皆への土産も渡し、長老の許可も得ていますので」
ディーのお母さん、普通の人っぽい。ディーみたいな硬い口調なのかとドキドキしてたんだけど。
あ、お父さんがその可能性がまだあるか……
「はいはい、じゃ、お通しして」
そう声が聞こえ、ディーに続いて中に入る。
あんまり奥行きがないように見えるログハウスなんだけど……
「失礼しまーす」
ルル、私、クロスケと入ったところで……
「まあ!」
と両膝をついて頭を下げる。この人もか!
「母上、気持ちはわかりますが……」
私が若干うんざりしてるのに気がついたのか、ディーがやめさせようとしてくれる。
けど、感激してるのか聞こえてないんじゃないかなー。
と、クロスケがスタスタとお母さんのところまで行って……ポンと肩に前足を乗せた。
「ぐぶっ!」
私はいつぞやにディーが肩ポンされたのを思い出し、吹き出しそうになるのをグッと堪える。
隣を見るとルルも同じらしく、必死になって笑いを押さえ込んでいた。
「は、はいっ!」
またその肩ポンに真面目に答えるディーのお母さん。
目がキラキラしてるんですけど……
「ワフ」
「はい!」
何を通じあったのかよくわからないけど、すくっと立ち上がって台所?の方へと消えていった。
ディーはディーでうんうん頷いてるし、なんだろね、これ。
ルルはまだツボから出られないっぽいので、私が聞くしかない。
「えーっと、ディー? どういうこと?」
「ああ、多分、グレイディアの干し肉があるはずだから、それを取りに行ったのだろう」
今のどこにそんなやりとりがあったの……
だが、ディーのお母さんはその通りに干し肉を持ってきて、跪いてクロスケに献上の構え。
「ワフー」
なんだかふんぞり返ってる気がしなくもない。苦しゅうないって感じ?
うーん、ちょっと甘やかしすぎたかな……
「こら、クロスケ。ちゃんとお礼を言いなさい」
「クゥン」
私がちょっと怒ったのがわかったのか、クロスケはディーのお母さんに頬擦りし……
彼女はそのまま気絶した。
***
「あ、改めまして、ディアナの父のセルティアです」
「母のディシャラです」
あの後、ディーのお父さんが帰ってきて、ほぼ同じことを繰り返して、ようやっと落ち着いたところ。疲れたよ……
「ボクはルル!」
「ミシャです」
「ルルはベルグのノティア伯爵の孫娘。ミシャはあのロゼ=ローゼリア様の弟子だ」
ディーには隠さずに伝えてもらう。
ご両親ともそれを言いふらすような人でもなさそうだし、そもそもこの村から話が広まることもなさそうだしね。
まあ、この時点ですでにご両親ともビックリって感じなんだけど。
「ワフッ!」
「クロスケ殿はミシャの相棒。何者かに囚われていたクロスケ殿をミシャが解放してからだな」
ちゃんと紹介してというクロスケの意を汲んで説明するディー。
それを聞いてポカーン状態になってしまう。
「父上? 母上?」
「あ、ああ、すまない。いろいろと刺激が強すぎてな。その……娘が何かご迷惑をかけたりしていないだろうか?」
「いえいえ、いつも助けてもらってます」
オーガロードの件はディーが悪いわけじゃなかったしね。
ルルもうんうんと頷いている。
「それなら良かった……。閉鎖的な里で特に見るものもないと思いますが、ゆっくりと休んでいってください」
「ありがとうございます」
「では、私の部屋に案内します。母上、夕食をお願いできますか?」
「ええ、もちろんよ」
うきうきで台所へと掛けていくお母さん。
ディーが帰ってきたことより、クロスケの方に嬉しがってるよね、あれ。
「ディアナ、部屋に案内する前に一つ良いかい?」
「なんでしょう?」
「その弓とマントは……」
あ、気付かれましたか? そりゃまあ、特注品ですもんね。
ディーがそれらをクラリティさんから受け取った経緯をざっくりと話したところ、お父さんは少し考えてからこう言った。
「リュケリオンに近いエルフの里に、昔、最高の弓を求めてドワーフに弟子入りしたエルフがいると聞いたことがある。クラリティ殿はその方なのかもしれないね」
おっと、あっさりとクラリティさんの出自が。
閉鎖的なエルフの里ではあるが、里同士での交流は多少あるらしい。まあ、血が混じらないとまずいっていうのはあるんだと思う。
そういえばと思い出して、私が気になってたことを聞いた。
「私たちのギルドマスターの友人に『ディオラ』という方がいて、リュケリオンで会うつもりなんですが、お知り合いだったりしませんか?」
「え、ディオラって……おい、母さん!」
「はいはい、なんですか?」
パタパタと台所から戻ってきたお母さんに先程の話をすると……
「あら、ディオラは私の姉ですよ。ディアナが生まれる前に里を出て行ったきりなんですけど」
ということだった……
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