魔導都市リュケリオン
プロローグ:職務経歴書
こっちの世界に転生? 転移? してきて四ヶ月近く。夜早く寝て、朝早い生活にも随分慣れてきたと思う。でも、寝起きは相変わらず良くない。
「クロスケ、ゴー!」
「ワフッ!」
今日もまたドワーフ娘ルルに毛布をひっぺがされ、ウィナーウルフのクロスケにダイブされて目が覚める。
二人とも、すぐ寝られるしすぐ起きられるんだよね……
「ううう、起きるから〜」
クロスケは最初助けた時は、もうすぐ大人の仔犬って感じだったのに、今やすっかり立派な成犬……成狼になった。いや、まだ成長してるっぽいんだよね……
「えーっと……。ああ、そっか。ゲーティアの宿だっけ……」
意識がスリープ状態から復帰し終わり、周りの景色を認識して状況を整理する。
転生前ならまず枕元に置いてあるスマホで時間を確認するところだけど、こっちの世界にはそこまで精密な時計がない。
私が魔法付与で作った「時間と分がわかる程度の腕時計」で、今が朝の二の鐘が鳴る前——午前八時前——なのを把握する。
「ルル、ミシャ、朝食はもう食べられるそうだぞ」
エルフ娘のディアナ——通称ディーが部屋の扉を開けて、そう声を掛けてくれた。
朝の二の鐘から朝食が食べられるって話だったけど、もう準備できてるのね。
「ん、すぐ着替えるー」
「食べたら出発しよ」
「そうだね。散歩しながら国境門まで行こうか。あ、ディーの里に行くのに買い物しないとだね」
意識が完全に覚醒したので手早く着替え。さらに荷物を確認。
指輪、ペンダント、腕時計はつけっぱなし。
サイドポーチ、
最後に部屋全体に清浄の魔法を掛けて出る。
夕飯も美味しかったし、静かでいいお宿だったのでお礼も兼ねて。
「立つ鳥跡を濁さず、はちょっと大げさかな?」
「ミシャ?」
「ん、何でもないよ」
元の世界のことわざはこっちの世界で通用したりしなかったりする。
私が貰っ……てはないけど、持ってるっぽいチート能力? 完璧に近い言語翻訳もこの世界で該当することわざがないとどうしようもないのかな。
「ワフ!」
「はいはい、朝ご飯に行きますよ」
クロスケ、本当に食いしん坊なんだよね……
***
「やはり王都に向かう馬車が多いな」
ゲーティアの大通りは、王都方面へと向かう馬車で混雑気味。
つい先日、マルス皇太子とエリカ皇太子妃が結婚し、そのお祝いが一月ほど続くらしい。
「結局、エリカってなんでルシウスの塔に挑戦したんだろ?」
「あ、ちゃんと聞かなかったね。まあ、皇太子様と結婚する前にやりたいことは全部やっておきたかった、って感じだと思うけど」
「なるほどな。エリカならわかる気がする……」
私たちはノティアから王都に来る途中、傭兵としての技量を測れるルシウスの塔に挑戦した。
その時、たまたま知り合って同行したのがエリカ。その時はまだ大公姫——現国王の姪——だったんだけど、私たちは当然そんなことも知らずに仲良くなってしまう。
全二十階層あるルシウスの塔の半分、十階層を突破して別れたんだけど、王都に着いたら晩餐会に呼び出しを食らって、エリカの身元判明。
さらにルシウスの塔の続きに行くぞって話に巻き込まれてしまう。
ちょっとズルをしたかもしれないけど、ルシウスの塔を最上階まで無事クリア。
で、まあ、なんで大公姫であるエリカがそんなことをって感じだったんだけど、今の皇太子様と結婚する前にっていうなら納得かな?
「偉くなっちゃうと大変だよね〜」
ルルがそう言うけど、あなただってノティア辺境伯の孫娘ですよ?
まあ、お兄さんがいるから後を継ぐことはないんだろうけど。いや、あのお兄さん、シスコンを卒業して結婚できるのか心配だな……
「あれが国境門だ」
ディーが指差す先に見えるのは、三階建ぐらいの高さがある石造りの大門。なかなかにすごい。
ノティアの街壁の門も、王都の門も感動したけど、この大門はもっとこう「防ぐ!」感が全面に出ていて力強い感じ。
「あれ? お土産買うんじゃないの?」
「ああ、門が開くのは朝の三の鐘が鳴ってからなので、しばらく時間がある。この近くに私がよく来ていた店があるので、そこへ行こう」
へー、意外とちゃんと入出国を管理してるんだ。
いや、でも、私がノティアに初めて入った時は「東の村から出稼ぎです」って誤魔化してスルッと入っちゃったな……
東側の国、パルテームとは全く交流が無いっぽいし、村民っぽい格好(シルキーのお墨付き)で来たから大丈夫だったのかな?
「ミシャ!」
「ああ、ごめんごめん」
うん。この思考にはまり込む癖、もう少しなんとかしよう……
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