具現旧日

神崎りら

The end of magic 零章  メッセージ

 「キミがるかぎり私は…」




 なにかがこえた。しかしなにかはわからない。それがこえであるのかすら。

「…い……」

かすかにこえこえる。

「おい……」

そのこえ徐々じょじょおおきくなっていく。

「おい……ろ」

「…あ……?」

「お、やっときた。ほら、かえるぞ。いつまでてんだよ。」

けると幸輝こうきまえすわっていた。

「ん…あぁ、ごめん」

つくえよこにあったかばんった。

教室きょうしつからると幸輝こうき不思議ふしぎそうにった。

「でもよぉ、よくあんなにれるよな」

「うん…いや、何処どこでもれるから。ぼくは…」

「なんだよそれ」

何処どこにでもあるようなありふれた会話かいわだ。なん面白味おもしろみのかけらも日常会話にちじょうかいわ

「そういやおまえコンタクトにしたんだな」

「え?あ、うん…二日目ふつかめ

うそをついた。コンタクトなんてしていない。くなった。どうしてかはわからない。

 くつえて校舎こうしゃる。

「で、なんで?」

「え?」

「コンタクト。きなひとでもできたか?」

「いや、ちがうよ」

必死ひっしかんがえる。本当ほんとうはコンタクトなんてしていないことどうわけをしようかを。

「まあどうでもいけど」

「ええんかい」

おもわずくちてしまう。

「ナイスツッコミ」

幸輝こうきうれしそうにう。

そうこうしてえきについた。そして幸輝は切符売きっぷうに向かって行く。

「まだなんだ」

「なにがだよ」

幸輝が振り向く。

「いいよ、速く買いなよ」

そうすると幸輝は切符売り場の画面を数回タップする。

 ホームに入るとすでに電車が止まっていた。

「お、ラッキーじゃん」

幸輝はその電車に乗ろうする。

「この電車…違うよ」

幸輝が扉ギリギリで止まる。

「速くいえよ」

「速く気付きづきなよ。って言うか覚えてよ。僕達が乗るのは次の電車だって」

数分経つと各駅停車かくえきていしゃが止まる。それまで特に面白味おもしろみのある話なんてものはなかった。二人はその電車に乗り、一駅一駅ひとえきひとえき順番に通り過ぎて行く。

 電車を降り、駅から出ると西にが輝く。

「それじゃあ、僕はこっちだから」

「おう!またな!」

二人はわかれて道を進む。気が付けば辺りは暗く街灯が足下を照らす。

 黙って歩く夜道、一人ポツンと小さな人影が見える。

 その時何故かその影を放っておけなかった。

「女の子…?」

何か不気味な気配がした。

 確かに小さな女の子の影だった。

 少し心配になった。

虐待ぎゃくたいか?家出?警察に…』

そんな言葉が脳裏を何度も駆け巡る。しかし、なにかがおかしい。辺りは家があまりない。虐待ならアザの一つや二つあってもおかしくはない。なら家出?それも違う。なぜならその子は怯えているから。まるで何かから逃げているような怯え方。

「ねぇ、きみ如何したの?名前は?お家はわかる?」

返事がない。まるでこの世の終わりのような顔をしている。

視線を携帯におとす。すると少女が何かに怯えだした。まるで大智の後ろになにかが居るとでも言うように。

「?」

大智は後を振り返る。そこには気味きみの悪いかげうごめいていた。

 街灯の明かりにあたりようやく姿があらわになる。

「……は…?」

バケモノ。何度も脳裏に逃げないとと駆け巡る。しかし逃げる事は愚か足すら動かない。

「くそぉっ!」

にごったった目でこちらをジロジロと見ている。そして刹那の出来事だった。

 瞬きするよりもはやくは目の前まで来た。そして鈍い音と共に激しい痛みが走る。

「ぐぅっ…」

ガリガリとなにかをかじる音。気が付けば足の感覚はなかった。そして、次に瞬きをしたとき。胴体と首は切り離されていた。

「終わった…」

初めての感覚。

「痛い…いたい…イタイ…いた…イ…」

そして…





 目が覚める。飛び上がるように顔をあげた。夢だったのか。と少し安心した。すると

「うわっ!」

起きたいきおいで後ろに転倒する。

「どうした狭霧さぎり

授業中の先生が黒板を背に大智を見る。

「大丈夫です」

そう返答する。そして授業が再開された。

 チャイムがなり、辺りは騒がしくなる。

「お前寝てたろ」

幸輝が後ろを向く。

「え、うん」

「あれは笑ったわ。さて帰るか」

幸輝はそれ以外何も言わなかった。

教室を出ると幸輝が後ろの大智に言った。

「しかしよくあんなに寝れるよな。あのまま寝てたらチャイムも聞こえなかったんじゃないのか?」

「うん…」

大智は少し不思議に思った。

「どうした?」

「いや、なんでも」

そのまま駅まで歩いて行く。

「そういやお前コンタクトにしたんだな」

「うん……ん、ねぇ」

「ん?」

「この話前もしなかった?」

「いや?夢の中とゴッチャになってんじゃね?」

そうなのかもしれない。あれは本当に夢だったのか。それが何故か引っかかる。

「おーい」

「え?」

「大丈夫か?お前今日へんだぞ?」

気が付けば着いていた。

「じゃあまたな」

「うん…」

「……事故に遭うなよ」

「…」

いつもの帰り道。街灯の下に小さな人影がある。

 まただ。夢と同じだった。

「もしかして…夢じゃないのか?」

女の子が何かに怯えて居るように小さくうずくまっている。

 あの夢が本当なら来る。思い出したくもない。

 大智は決意した。

 大智はその子の手を取り走りだした。女の子が何度か転けそうになったが無我夢中で走っていた。あれが夢だと祈って。

 気が付けば住宅街まで来ていた。後ろを振り返ると息を切らした少女と暗闇が広がる。

 前を向いて歩こうとしたとき、右手がふと軽くなった。

「…?」

後ろで嫌な音がする。何かをむさぼる様な音。

 おそるおそる振り向くと…

「……ぁ、あぁ…うそ…だ………は……?」

気付けば腕に噛みついていた。

よくわからない何か。このは容赦なく腕を噛む。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

大智はを必死にがそうとする。目から涙が滲み出る。

「いやだ…いやだいやだいやだ…死にたく…ない」

持っていた自分の鞄をにぶつけた。何度も。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返し殴った。

 やっと剝がれた。右腕と一緒に。

 右腕から血が流れる。

「痛い…」

もはやなにも考えられない考える脳すら持ち合わせて居なかった。その時は。






「また…死んだのか…」

嫌だった…を認めたくはなかった…。


 また死んだ…もうよくわからない。本当に死んだのか。

「……っ…!」

暗闇で目を開けた。暗く何も見えない。

 顔をあげる。明るくなる。

「……」

戻ってきたのだろう。腕がある。目の前で女の子が無残に食べられた。それを見ることしか出来なかった。

酷い事をした。

 あの子の最後の顔が頭から離れない。

 訳も分からず無造作に口に入れられ…泣いていた。

「うっ…」

急な吐き気が大智を襲う。

 大智は口元を抑えて走り出した。

「どうした狭霧」

授業をしていた先生が手を止めて振り返った。それに大智は答える事無く教室をとびだした。

 トイレには水道の水が流れ落ちる音と大智の嗚咽が響いた。



「先生…俺、やっぱ様子見てきます」

幸輝が座席せきをたった。

「あ、あぁ…」

幸輝は教室を出た。



「っはぁ…はぁ…っ……」

嫌な臭いがする。

 あの奇妙な影…人ではない…あれは…。

「大智っ!」

幸輝が息を切らして走ってきた。

「授業は?」

「それよりどうした?寝てたと思えば急に走り出して。何かあったのか?」

言えない。言ってもどうせ信じてもらえない。そんな考えが頭の中を駆け巡る。

「気にしないで…」

大智は幸輝の横を通りすぎた。

「お、おい…」

「ホントにいいから…大丈夫だから…」

大智はそう言うがその顔は語っていた。暗い表情、絶望の上に佇んでいるような顔をしていた。

 幸輝の知らない顔…幼馴染みすら押し退けてしまう鋭い目付き。

「…」


そして…

「戻った…。今度は…今度こそは」

「マタキタ」

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