第18話 与作、終わりを自ら迎えようとする
終わったー。
俺の人生おわたー。
ゴブリンの耳を入れた小汚い袋片手に、おわたたたー。
所持金は、ぎり宿屋に一泊できるお金。
ほわたたたー。
ふらふらと何にも考えずに歩いていたらいつものボッロボロの宿屋の前についていた。
宿に泊まらず一食を優先する選択肢もあったけど、今はもう何も考えず、横になりたい。
ふらふらしながら宿屋に入り愛想の悪い宿屋のおばちゃんにお金渡して部屋に入ってドアを閉めた。
すぐに床に寝そべった。
もう、寝る。
目を閉じた。
いつもの部屋のカビ臭さに加えて床に這うように広がった着てる服のゴブリン臭が生乾きの水分と混ざって強烈に臭い。
何も考えたくないのに臭いが覚醒させて負の感情が湧き出る。
不安、不満、苦痛に絶望。
感情が溢れまくって、体から溢れて狭くカビ臭い真っ暗なボロ部屋に充満しちゃうんじゃないかって思うほど溢れまくって。
涙やら鼻水やら嗚咽やら。
もう嫌だよ、苦しいよ。
誰か助けてよって願い続けた。
何も起こらない。
何時間たったか、もしかしたら一瞬だったのか、体も心も冷えていく感じがした。
冷えるにつれて、感情も冷えてって静かになっていく。
全部が冷え切って無になった。
死のう。それだけ思った。
死のう。それだけが体を動かした。
床から体を起こして、シャツを脱いだ。
シャツを捻って端を結んで輪っかを作った。
いつも服を乾かしてるドアノブに引っかけて、その輪っかに頭を通して、輪っかを首に引っ掛ける。
怖いとかなんも思わない、無。
死のう。
それだけだった。
体に力を抜いて、首が締まる。
死のう。
更に体重が下に掛かるように脱力して更に首が締まる。
首から上の血の気が引くのを感じる。
圧迫されてじわりじわりと息苦しくなっていく。
生まれて25年。
日本でも異世界に来ても辛いことばっかだった。
そりゃ楽しい事もまあまああった気がするけどそんな事が思い出せないくらい苦しかった思い出が強い。
なんか体が痺れてきた。
あぁ、これで終わるんだ。
これで———
バキッ!って音がしたと思ったら首に掛かっていた力が抜けた。
込み上げてくるものがあって咳き込んだ。
ゴホゴホいってる最中にドタバタと部屋の外から近づいてくる足音が聞こえた。
「ちょっと!今のは何の音だい!って、ああっ!!!ドアノブが壊れちまってるじゃないか!ちょっとアンタ!何してくれちゃってんだい!」
宿屋のおばちゃんだった。
どうやら俺の体重に耐えきれなくてドアノブが壊れてしまったみたいだった。
「今すぐ弁償しなっ!何?金がない?」
おばちゃんにはがいじめされて引きずられ、宿屋の入り口まで連れて来られてからポイって感じで宿屋の外に投げられた。
外に放り出された俺に向かって、出ていきなっ!て捨て台詞を吐いておばちゃんは宿屋に戻った。
いや、あのおばちゃんどんだけ力が強いんだよ。
......死にぞこなった。
俺、死ぬ事も出来ないのかよって呆然としてしまった。
どんだけ思うようにいかないんだよ。
どんだけ俺、運がないんだよ。
もう、どうすりゃいいか、わかんねえよ!
通りの通行人達に奇異な視線を送られる中、その場にうずくまり、涙やら嗚咽やらが止まらなかった。
『おーい。聞こえるかぁー?』
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