第17話 与作、終了のお知らせ

変わらずゴブリンを数匹倒して街に戻った。街の外で水被って門兵からの同情するような侮蔑するような視線を浴びながら街に入るいつもの流れ。


だけどこの日はこっからいつもと違っていた。



冒険者ギルドの裏手についていつも通り服を洗おうとしたんだけど、その場には俺一人。


いつもなら駆け出し冒険者の少年達が俺と同じゴブリン狩りで汚れた服を洗う姿が必ず数人はあるのに今日はない。


珍しい事もあるもんだなってちょっと気になったけど構わず自分の服をゴシゴシ。





「悪いけど、これ買取不可なんだわ兄ちゃん」


「えっ?それって、どういう?」



いつも通り服を洗い終わった後に魔物の解体場にある魔物の引き取りカウンターのおっさんにゴブリンの耳が入った袋を渡したが買取を拒否された。



「なんだ、知らねえのか?今日からゴブリンは魔物買取の対象外になったんだよ」



えぇ!?何それ。





「ヨサクさん、ご存知なかったのですか?カルディス様の施策でゴブリンの定期駆除をバークダッド領軍が受け持つ事になったのですよ」



買取してもらえないことにクレームつけにギルドの受付に行くと受付嬢のアリーチェが説明してくれた。



冒険者ギルドで買取された魔物は色々な用途に使われる素材として扱われるため売買が成り立つ。


だけどゴブリンの素材は全くなんの流用が出来ない。


じゃあなんで冒険者ギルドがゴブリン討伐に対してお金を出すかというとゴブリンの駆除自体が目的だからだ。


農作物荒らしたりするし、人も襲うし、何より繁殖力が高い。定期的に狩っとかないとすぐに増えちゃって悪さする。


だけど素材として全く役に立たないゴブリンを積極的に狩りたいなんて奴はいないから(臭いし)、その役目を地域貢献を理念に掲げる冒険者ギルドが担っているらしい。


これは俺が住む街ルカサに限った事じゃなく国中の冒険者ギルドがゴブリンをはじめ害獣認定された魔物を狩る役目を負ってるそうだ。


で、なんだが、そこにまたあのイケメン領主(実際は見た事ない)が口を出してきやがった。


都市美化計画の一環としてどうすれば街がより良く住みやすくなるかの意見を広く市民にアンケートをとったらしい。


その中で冒険者を志す少年少女達がゴブリン臭塗れになっている姿は心苦しい、どうにかして欲しいとの意見があり、未来ある子供達には正しき道を示すのは為政者の当然の責務だ!と声高らかに宣言した結果、冒険者ギルドと協議しゴブリンの討伐を定期的に軍が行う事になり冒険者ギルドでは冒険者に向けたゴブリン討伐依頼を取り下げるに至ったらしい。


元々冒険者ギルドは地域貢献の為ってことでゴブリン討伐を請け負っていたわけだけど、金になるどころか支出にしかならないゴブリン討伐。


しかも最近じゃゴブリンは冒険者ギルドが駆除するのが当たり前、義務だって感じで思われていて地域貢献のアピール効果が低い。


逆にゴブリン討伐する冒険者達に対して、主に悪臭を放つってな事で、あまりよろしくない感情を持つ市民が結構いるようだ。


ゴブリン討伐の請負に頭を悩ませていたタイミングで領主が引き受けるってのは渡りに船だったんだろうな、あっさりゴブリン討伐を領主に渡した。





「ゴブリンは買取出来なくなりますよってお知らせは討伐依頼書の横に随分前から貼っていたのですけど、ヨサクさん確認していなかったのですか?」


言われて、ゴブリン討伐の依頼書が貼ってあるボードを遠巻きに見てみた。内容は遠くてよく読めないけど、確かになんか一枚紙が貼ってある。


どぶさらいの依頼がなくなってからは殆どギルドの建物の中に入る事はなかったから気付かなかった。


って、そんな事はどうでもいいんだよ!これ売れなきゃ今日ご飯食べれないんだけど!?



「すいません。規則ですので......」


「そっ、そこをなんとか!......ああ、はい、無理ですか」



終わった。終わってしまった。



「あの、ヨサクさん。お話は以上でして、あの、ですね、その、そろそろお帰りいただきたい、です。臭いが......他の冒険者の方にもご迷惑になりますので」


周りの冒険者達からの刺すような視線。


「あぁ、はい、すいません」


申し訳なさそうな気まずそうな表情のアリーチェを背にギルドを出た。



......終わった。

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