第15話 与作、神(?)とその従者(?)の声を聞く
調理場での下働きとゴブリン討伐の日々を無心に、ただ時間を消化する為だけに繰り返していた。
この日もゴブリン討伐を終えて街の外で一人、無心で着てた服を脱いで洗っていると、なんか聞こえてきた。
『おい、ミケ。お前が言ってたポイントボーナスどうなってんだよ!いつになったら入って来るんだよ!』
『何回言ったら分かるニャ?お前は脳味噌腐ってんのかニャ?』
『何だとっ!?てめぇ!このやろぅ!』
なんか男女の痴話喧嘩みたいな会話が聞こえてくるが無心でゴブリン臭にまみれたシャツを、ごしごし。
『世界を四つ造ったらボーナスはいるニャって言ってただろが!このハゲ猫!大体なんだよ、その三日月ハゲはよ!』
『だから何回も言ってるにゃ。お前の深層意識を具現化したのがミケの姿ニャ。黒猫の額に三日月の模様があるのは、お前の中でマストってことニャ。お前は脳味噌腐ってんのかニャ?』
なんか不毛な言い争いが聞こえてくるがゴブリン臭にまみれたズボンを、ごしごし。
『それに四つの世界を造って、生命エネルギーがある程度貯まるまで発展出来たら同時ボーナスが入るってミケは言ったニャ。お前は脳味噌腐ってんのかニャ?』
『貯まるまでってどんくらいだよ?』
『一つにつき6万ぐらい貯めるニャ。何度も言わせるなニャ。お前は脳味噌腐ってんのかニャ?』
『6万!?んなもん無理ゲーじゃねーか!』
『お前が変なこだわりで世界を造るから出来ないのニャ。普通にやれば充分出来るニャ。お前は脳味噌腐ってんのかニャ?』
『変なこだわりとは何だ馬鹿野郎!転移とか転生とか男のロマンじゃねーか!』
『ロマンじゃポイントは貯まらないニャ。そんなごく少数が抱くロマンなら尚更ニャ。寝言は寝て言えニャ。お前は脳味噌腐ってんのかニャ?』
......ちょっと待て。なんか聞き捨てならない話が聞こえてきたんですけど。転生とか転移とか。
辺りを見渡しても俺以外誰もいない。でもなんかよくわからん言い争いは聞こえ続いている。どっから聞こえてんだこれ?
『とにかく造ったものはしょうがないニャ。ポイントもほとんど残ってないから今ある世界で何とかするしかないニャ』
『ほとんどない?......って、げっ!ポイント2000切ってんじゃねーか!さっきまで10,000あったのに何でだよ!?』
『気づいてないのかニャ?さっきから神託ツール使いっぱなしニャ。ポイントどんどん減ってってるニャ。お前は脳味噌腐ってんのかニャ?』
『なぬーーーっ!?早く言えよ!てか、誰に神託繋げてんだよ!』
『この前、転移させた男に繋がってるニャ。お前は脳味噌腐ってんのかニャ?』
『その脳味噌腐ってんのかって言うのやめろ!』
おいおいおいおい、ちょっと待て。なんかよくわからんが俺に関係してる話をしているような気がする。
これは声掛けとくべき、だよな?誰もいないけど、とりあえず話しかけてみよう。
「あのー、すいません。どなたか知りませんが転移がどうとかって話、ちょっと聞かせてもらえませんか?」
シーンとなった。この場に通りすがりの人でもいたら、誰もいないとこで半裸な男(俺)が大きめな声で独り言いっている様に見えただろう。
『えっ?あ、何?』
返事が返ってきた。
「転移がどうとか聞こえたんですけど?」
『気のせいじゃね?』
「気のせいじゃないと思うのですが?」
『気のせいニャ』
「いや、あの、気のせいじゃないと思うんですけど?」
『あぁ、もう!うるさい奴だな!気のせいって言ったら気のせいなんだよ!』
『そうにニャ。カンタの言う通り気のせいニャ。お前は脳味噌腐ってんのかニャ?』
なんかイラっとした。
「誰が脳味噌腐ってるだ!大体、さっきから語尾にニャってつけんな。なんだよニャって!」
『ミケの喋り方はイトウカンタの深層意識を具現化した喋り方ニャ』
「イトウ?バリバリ日本人じゃねーか!おい、イトウ!さっき言ってた転移とか転生の話を詳しく聞かせろ!」
『やかましい!自分で考えろボケ!俺は忙しいんじゃ!』
『ミケも忙しいニャ』
「猫女は黙ってろ!」
『ミケに性別はないニャ。声が女性なのはイトウカンタの深層意識を具現化した声だからニャ』
こいつら何言ってんだマジで。意味がわからん。てか何処にいるんだ?異世界だから姿が見えなくても会話できるあれやこれやがあんのか?
『カンタ、こんな脳味噌腐ってる人間を転移させたのは失敗ニャ。だからやめとけって言ったニャ。お前は脳味噌腐ってんのかニャ?』
「あっ!言った。今、言っただろ!俺を転移させたって、猫が!おい、イトウ!何とか言えよ!」
『うるせぇなぁ。あぁ、もう、分かった分かった。そうですよ、俺があんたを転移させました。これでいいだろ?』
「いいわけないだろ!何でチートも無しに転移させてんだよ!あほか!俺がどんだけ辛い思いしてると思ってんだよ!」
『カンタはアホじゃないニャ。脳味噌が腐ってるだけニャ』
『腐ってねぇよ!......で、えーっと与作、だったっけ?チートとか何贅沢言ってんだよ。お前本来ならとっくに死んでるから。死ぬ間際に転移させて助けてやったんだから、むしろ感謝して欲しいね』
「感謝?ふざけんじゃねぇよ!俺がどんだけこっちに来て苦労したと思ってんだ!ゴブリン塗れの生活がどれほど荒んだものかお前にわかんのか!?」
『いや、それ自業自得だから。お前、転移してすぐに商人にリバーシの販売を借金して提案しただろ?』
「うぐっ!何故それを......?」
『見てたんだよ。......売れねぇ、売れねぇよ、売れるわけがない、そんなもん!商売舐めてんじゃねぇよ』
「う、うるせぇ!チートがないから知識チートでなんとかしようと努力しただけだ!」
『浅い、実に浅はか!娯楽に飢えてるからってそんなもんが簡単に流行るわけねーだろが。そもそも娯楽に飢えてる人間が多いなら、それを満たすもんは自分らで造っとるわ!人間の知恵舐めんな!』
だってリバーシは異世界転移の定番じゃねーか。くっ!思い出してきた。全然売れなかった時の商人達の、あの蔑む眼差しを!嘲笑を!目から汗が溢れてきた。
『何泣いてんだよ。泣きたいのはこっちだっつーの。転移させんのにどんだけポイント使ったと思ってんだよ。......あーっ!もう!分かったわ。なんかスキルやるからそれで我慢しろ』
えっ?マジで?
『まぁ、転移させた俺にも一ミクロン程には責任あるからな。感謝しろよ?貴重なポイントを使......って!ポイント500切ってるじゃねーか!』
『当たり前ニャ。神託ツール使ってるから、どんどんポイント減っていってるニャ。お前は脳味噌腐ってんのかニャ?』
『ぬぅおぉぉぉーーー!ふざけんなよマジで!神託終わり!終了!』
急にプツリと声が聞こえなくなった。
えっ?ちょっと待って?スキルは?
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