第14話 与作、ついに悟りを開こうとする

 就職が駄目になった。借金は山積み。まさに八方塞がり。


 一体どうすりゃいいんだと思いながらも日常となった日々を過ごした。


 時間が経てば経つほど考えれば考えるほど閉塞感に苛まれ気がつけばそれから逃げる様に何も考えなくなっていた。


 考えなければ悲しみも深くなんないってもんだ。無心無心無心。


 段々と日本でサラリーマンやってた時と変わらなくなって来た。


 環境が変わろうが、結局俺は俺のままな訳で、何も変わらない。


 行き着く先は社畜根性が真っ黒く染みついたあの頃と何もかわんねーよ。


 今日もひたすらゴブリンを突く。


 いい加減慣れない悪臭にも無心という境地を手に入れた俺にとっては何の問題も無かった。


 草原は青く生い茂り美しく。


 そんな中、ゴブリンの耳を切り落としている俺は実に虚しい。


 この後はいつもの様に街に帰って体洗ってギルド行ってカビ臭い部屋で寝るだけ。


 考えたら負け、想ったら負け。


 無心に無心を重ねて更に無心でつつみ、時が過ぎ去るのをただ待つのみ。


 俺みたいな人間の生き方の本質の中で、ただ生きてるだけ。


 と、なんか音がしたのでそちらを見ると遠くの方で馬車がのんびり走っていた。


 結構豪華そうな作りの馬車だな。一台じゃなくて三台。しかも周りにはなんかゴテゴテした鎧身につけた奴らも数人いた。


 あれは、貴族だな。


 馬車と俺の距離は結構離れている。


 それの距離が貴族様とクソ雑魚平民以下の俺との社会的地位の差、貧富の差を表している様で何だか物悲しい。


 いやいやいや、無心無心、俺は無心なのだ。


 物欲を捨て境地に至るのだ。


 そう、それはまさに修行僧の様に。


 ナムアミダブツナムアミダブツと何かそれっぽいお経を唱えた。


 俺はそう、修行僧。


 そう、俺は......。


 なんか涙がいっぱいでた。


 街に帰ろう。

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