第6話 与作、日常となった1日を過ごす(午後)
昼過ぎに調理施設での仕事が終わり、いつものようにその足で冒険者ギルドに向かう。
ギルドに入りランク別に設置された掲示板を確認する。
受注可能な依頼は、依頼書が掲示板に貼られているのだがFランクの掲示板は2枚だけ。
街のドブさらいとゴブリン討伐。
他の依頼は午前中に他の冒険者に取られている。
いつもと変わらない。
ゴブリン...ゴブリンかぁ。
選択肢は一つしかないがなかなか依頼書に手が伸びない。
いつも通りを辿るしかないのだが、いつも通り気が進まない。
暫く掲示板の前でぐずぐずしていると受付嬢のアリーチェに声を掛けられ、結局今日もゴブリン討伐を受注し草原へ。
現れたゴブリンをチクチク斧で突いて倒し、10匹倒したところで夕方となる。
討伐の証明となるゴブリンの左片耳を斧で切り離し二重にした小さな袋に入れて街へ戻る。
街は5メートルぐらいの防壁に囲まれており入り口は東西南に一か所ずつ設けてある。
いつも出入りするのは南側の入り口だ。
南側の入り口付近には川から水を引いて作られた洗濯場がありそこで適当に置いてある桶に水を汲んで服の上から何度か水をかぶる。
斧もゴブリンの血の付いた部分は水で洗い流す。
こうすれば少しは臭いがましになる。
タオルなんてない。
びしょ濡れの体を手で水けを払ってそのまま街の入り口へ向かう。
「おい、あんた。今日もか?...いいぞ」
顔見知りの門兵が顔を顰めながら声を掛ける。
普通は身分証を提示し(俺だと冒険者証なのだが)確認してもらわないと通してもらえないのだが、最近は顔パスで行ける。
水で流したとは言え臭いは完全に落ちてないし、その上ずぶ濡れだから近付きたくないのだろう。
そのまま冒険者ギルドへ向かう。
通りすがる人たちのしかめっ面も慣れたが心は傷つく。
冒険者ギルドの入り口前は早朝ほどではないが込み合っている。
そのままギルドの建物のそばの路地を入りギルドの建物に隣接する裏手の魔物の解体場へ向かう。
ギルドの解体専門の職員たちが数名慌ただしく行きかっているが気にせず中へ入り奥にある洗い場にたどり着く。
服を脱ぎ何度も体を流しある程度洗えばそのまま服を洗う。
ほぼ裸だが俺と同じように自分の体を洗う少年が何人かいるので気にしない。
俺と同じようにゴブリン討伐の依頼を受けた冒険者だ。
皆、無言である。
洗い終われば体の水けを手でしっかり払い水けは体にいくらか残っているがそのまま用意していた服を袋から取り出し着る。
そのまま魔物の解体場に設置されている魔物の引き取り専用カウンターにゴブリンの耳が入った袋をカウンターにいる受付のおっさんに渡し青銅貨1枚を受け取る。
銅貨50枚で青銅貨1枚となっていてこれで安い宿一泊と粗末な夕食にありつける。
そのまま解体場を出る。
冒険者の依頼は完了すればその報告をギルドの受付で行いそちらで報酬の受け取りを行うのだがゴブリンに限っては解体場で受け取る。
最初、それを知らなかった俺はごった返すギルド内に入り悪臭で注意を受けた。
その時の周りの冒険者たちの冷たい視線が恥ずかしくて悲しくて、苦い思い出だ。
ギルドを出てすぐのところにある大きな酒場でパンとシチューを頼む。
量も少なく味も薄いしパンは固い。
この組み合わせが一番安いのだ。
というかこれ以上は金が足らず頼めない。
他の客たちは楽しそうに騒ぎながら酒を呷る。
考えたら負けなのである。
無心になり作業のように口に詰め込んですぐに店を出る。
日が沈み等間隔に設置された街灯が照らす道を歩き宿を目指す。
宿といっても小屋に近い。
しかもかなりぼろい。
不愛想な店員のおばさんに手持ちの銅貨全部を渡し、かわりに渡された鍵に付いた木札に書かれた番号の部屋に入った。
畳二枚分のスペースの部屋(部屋と呼ぶには抵抗があるが)の隅っこには薄汚れた毛布が一枚たたんであるだけ。
天井も低くギリギリ頭がつかないぐらい。
壁の上の方に窓代わりに四角く切り取られた手が入りそうなぐらいの大きさの穴がありそこから漏れる外からの街灯の光で部屋の中はうっすら照らされる程度。
背負う斧を置き、洗った服を袋から出してドアノブにひっかけて干す。
乾きは悪いが何にもないのだから、仕方ない。
壁を背に座りかび臭い毛布にくるまりぼーっとする。
次第に瞼が重くなる。
今日も疲れた。
俺の一日が終わる。
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