調停者は斯く語りき
由岐
第0話 それは唐突に始まった
ぷかり、と不思議な浮遊感を感じる。
ばしゃり、と水音がして、ここが水の上だと知る。その割には冷たくないな、と優翔は思う。
目を閉じて、ここに来る前のことを思い出す。朧げに思い出せるのは真っ白な病院の天井と、青い空。そのコントラストが鮮やかだったことだけは覚えている。
「おや、目覚めたか。少年」
ふいに声がした。男とも女とも、老人とも子どもとも受け取れる不思議な声。目を開けて体を起こすと、ゆっくりとあたりを見渡した。
淡い光を湛える花があちらこちらに浮かんで、その水面を照らしている。床までの距離は浅いようで深く、なぜ浮かんでいたのかと不思議に思う。
「ここは世界の狭間。君は私に呼ばれてここにやってきたんだよ」
先程の声はするが、姿はどこにも見えない。
何とも言えない、不思議な空間にただ一人。優翔の疑問がわかったのか、その声は一つずつ説明をしていく。
「私は、君たちの言葉でわかりやすく言えば『神様』ってところかな。君がいた世界と、こちらの世界を繋ぐ番人で、ここはその世界と世界の狭間」
見慣れないのも当然だと、神を名乗った声は続ける。
「君の実体はもうこちらの世界にいるから、今の君は精神体だ。だから、声が出せないだろう?」
言われて気付いた。たしかに、声が出ない。そのかわり、と声が続ける。
「君が考えたことはそのまま私まで届く。だから、会話はできるよ」
疑問には一通り答えてくれる、らしい。とは言っても、わからないことだらけで何から聞けばいいのやら。
「まあ、確かに。いきなり放り出されても困るよね」
あはは、と笑いながら声が言う。その声に不思議と苛立ちは覚えない。
「じゃあ、適当に疑問だらけを解消してあげようか」
まずは、と声だけの空間に花の光が集まる。一つずつは淡く弱い光だったけれど、集まった分光は強くなる。その光が、やがて一人の男の姿を象った。
「この方が話しやすい、よね。で、まずは君が呼ばれたこちらの世界について」
待って。呼ばれたって、何。
「ああ、そこからだったね。君の世界にはこういった技術は存在していないから」
そうだった、と男はこめかみに手をやる。
「どう言ったらいいかな」
伝え方に悩んでいるようだった。なるほど、これは夢か。
「いやいや、夢じゃないよ。あ、これなんかがわかりやすい、かな」
男はそう言って両手を広げた。光り輝いているせいもあって、やたらと神々しい。そう思うと、だって神様だから、と返された。
「君が住む世界とは別の『異世界』。そこの救世主として、君は私に呼ばれたんだよ」
うん、これは夢か。
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