コロナロマンス

Sunbeams

第1話 出会いは突然に

コロナウイルスの存在がなければ僕と彼女は出会わなかったはずだった。


あれは3月の終わりだっただろうか。コロナウイルスという厄介な感染症が

流行しだし、だんだんと普通の生活を蝕むようになっていった。都内の学校は

のきなみ休校を決定し、そのまま春休みへと移行する流れとなっていた。

僕の通う大学も、早々に休校の措置がとられ大学構内への立ち入りが禁止される

事態となった。


後期のテストも終わっていて早い春休みが始まったと浮かれた気分になったのも束の間、休みが長期戦となりそうなのを見据えて大学から出された大量の課題を目の前にし、休校の原因となったコロナウイルスを恨めしくさえも思うのだった。仲の良い友達も彼女も仕事に忙しい日々を送っていたから、僕は夏休みを待たずして両親の別荘のある蓼科に移動し、毎日、課題に取り組む生活を送っていた。


僕は今、28歳で医学部の2年生だ。都内の大学を卒業してから数年間会社勤めをしていたのだが、幼いころから手先が器用で何か形に残る仕事をしたいとずっと思っていた夢があきらめきれず、その思いを突き詰めていくとある日から医者になるということしか考えなくなった。文系出身の僕にとって働きながら医学部受験というのは気の遠くなる話だったが、繁忙期以外、ほとんど定時に上がれる会計事務所に勤めていたので、幸い退社後の時間を勉強に集中することができた。


仕事の同期とは、初めからちょうど良い距離感をもった付き合いができていたので、退社後直帰する生活を不思議に思うものは誰もいなかった。きっと、彼女とデートしてると思われていたんだと思う。そう、僕には10年付き合っている彼女がいる。


彼女は大学で建築学を学び、今では建築士として活躍し、大きなプロジェクトも任されるようになっている。やりがいのある仕事を嬉しそうに話してくる彼女の姿はとても魅力的だし、好きなことを仕事にしている彼女の働きぶりを見ていてそんな彼女と付き合っていることが誇らしくもあった。お互い忙しい生活をしていたから、僕が学生に戻ることを相談した時も、反対されるどころかむしろ応援してくれた。10年も付き合っているから結婚の話も出るのかなと思ったけど、仕事が楽しくてたまらない今の彼女にとって結婚はまだ先の話のようだ。高校の時からの付き合いでお互いの両親のこともよく知っているからいずれは結婚するんだろうという暗黙の了解が彼女に安心感を与えてるのかもしれない。そして、僕もその彼女との関係を心地よく思っていたものだった。あの日、偶然が重なりあって、あの人と出会うまでは。




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