神殺しの英雄

リフレイン

第1話 神々の黄昏

 刀が振り下ろされる。晴天の朝朝露とともに一人の剣士の汗が滴る。その剣は本人の意思と寸分の狂いなく、銀線を描いた。

 そして1000回もの素振りを終えた後、少年は鞘に刀を納め、着ていた道着を洗濯機に放り込み制服に着替えた。

 俺の名前は時守零。時守流4代目正統後継者………なのだが、知る人ぞ知る流派……といった感じだろうか。

 というより、そもそも流派などはほとんど一般人に知られるようなものではないけれど。

 昔、家には父と母がいた。そして祖父も祖母もいた。けれども、今は誰もいない。殺風景となった我が家の玄関。靴を履いて、俺は学校に向かった。否、向かおうとした。

 ドアを開ける直前、殺気に気付けて、バックステップを踏んだ判断を行わなければ、十中八苦死んでいただろう。

 直後、赤い何かが、棍棒で玄関をぶち壊した。

 体長は約3 M。 肌は赤く、血走ったかのような禍々しい目。そして何より、棍棒と、真紅の角を持っていることから、赤鬼だと容易に分かった。

 (っ!!逃げろ!!)

 俺は逃げることに全神経を集中させた。わずかに見えた赤鬼の動きから、隙が多く、攻撃に入るまでのモーションが大きいと判断したから、しっかりと、堅実に戦っていけば、勝機があると判断したから、刀がある部屋まで、全力で走った。

 どう考えても赤鬼は、俺より絶対に足が速い。そして、図体がでかく、力が強い。正直勝てるのかほとんどわからない。だが、何もできずに、野垂れ死ぬよりかはマシだ。

 (無闇な反撃はいけない。かといって、逃げることは許されない。だから、刀を取る以外生きる道はない……!!)

 そう覚悟を決める。そして刀を取った。

 (まだ来てない……だがいつ来るか分からないしな……油断は禁物だ。)

 そう気を引き締める。

 そして足音が響いた。奇襲は十中八苦不可能。一発でもまともに攻撃を喰らえば致命傷なのに、こっちの攻撃は浅い傷で終わるだろう。

 (こんなん無理ゲーだろ……)

 そう考えながらも、口端を吊り上げる俺がいた。案外、戦闘狂なのかもしれない。そう思いながら、もしもの可能性を考慮して、すべての方向からの攻撃に対処できるように、正眼の状態で、精神統一をした。

 直後、左側の壁が壊された。破片で、怪我をしないように、右側の壁によった。

 「グルルルルゥ………」

 赤鬼は、血走った目で俺を見ると、棍棒を振り上げた。

 そして振り下ろされると同時に、鮮血が舞う。

 鬼の胸に浅く切られた剣の跡から。

「グガァ!?」

 鬼はその光景に目を見開き、たたらを踏む。もちろん俺は、その隙を逃すつもりは毛頭ない。まだ棍棒をそらして、鬼の胸に太刀を入れたことによる手首の痺れは残っているが、好機を逃すわけにもならなかったのだ。

 俺は右足で地面を力強く踏みしめ、脱力状態から全開で力を出し、刀を微塵のずれもなく振り下ろす。恐ろしくシンプルで難しい技。

〜 剣理 破刀術 奥義 天叢雲剣《あまのむらくものつるぎ》 〜

 「やったか……やばっ!!何言ってんだ俺!」

 つい漏らしてしまったその言葉。ラノベを、めちゃくちゃ読んでいた俺は、失言だとすぐに分かってしまった。慌てて口をふさぐものの、やってしまったものはもう取り返しがつかない……

 さっきの攻撃で、左肩から右脇腹まで深い傷を鬼に負わせた。

鬼が踏みしめている地面が鬼の血で真紅に染まり、地面に血だまりを作った。

 だが、鬼は踏みとどまり、完全に紅くなった眼で俺を睨んだ。

 背筋が凍り鬼の殺気だけで倒れそうになった。

 次の瞬間、俺は吹き飛んで壁に激突していた。

 内臓を傷つけたのだろう。口から血が吹き出し、俺は致命傷だと理解した。

 「かはっ………!!」

 俺がいたところには、赤鬼が拳を振り終えていた状態で立っていて、俺は、赤鬼に殴られたのだと理解した。

 ただ、疑問が残る。

(なぜ…棍……棒で俺を……殴らなかっ……たんだ……?)

 俺は気付いていなかったんだ。鬼に遊ばれていたことを。

 そしてそれ以上考えることができなかった。再び襲った致命傷クラスの一撃で。

 俺は元の部屋に戻っていた。

「生き……た…い…」

 気づいたらそう呟いていた。そして俺の幸運はまだ尽きてはいなかった。

赤鬼が流した血を吸い込んだのだ。その直後身体から紅いオーラが吹き出し、殴られたときとは比較にならないくらいの痛みが全身を襲った。

 「ガアアアァァッッ!!!」

身体が強制的に作り変えられていく感覚。

(死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい)

 ただそれだけしか考えられなかった。

 紅い光が収まっていく。俺の身長は10 CM 以上伸び、紅髮紅眼に変化していた。

 そして鬼が棍棒を振り下ろそうとする。気付いたのだろう。俺が変化したのだと。

 俺は鬼の攻撃がスローモーションに見えた。赤鬼の右足による踏み込みを足払いで崩し、バランスを崩したところで、ありえない速さで刀を振るった。

〜 剣理 連刀術 奥義 死屍累々 〜

 たった1息で20回赤鬼を切り刻んだ。赤鬼の眼から光が消え、死んだことも確認できた。

 「…………それにしても…何なんだよ一体……………………」

 そう赤鬼の死体を見ながら呟く。どう考えても妖怪、又は魔物とかそんな部類に入ると思う。

 だがしかし、それ以上に問題が発生している。鉄の匂いが俺の身体全身についていた。この状態で学校に行ってしまうと、絶対殺人鬼に間違われる自身がある。

 「今は………7時40分か。………田中先生に遅刻の電話でも送るか…」

 田中先生とは、俺がいる1−1の担任である、社会科の男性教師だ。

 しかし、いつまで立っても先生は電話を取らなかった。

 その時、俺の頭の中で1つの、考えたくない予想が浮かんだ。

 (もしかして学校がモンスターに襲われている………?)

 そう考えた瞬間、背筋に悪寒が走った。もし、赤鬼クラスが雑魚の部類に入っているのならば、間違いなく学校の中にいる皆は皆殺しにされるだろう。

 もうここは今までの地球じゃない生き物を殺す覚悟が出来ていないといけない。

 そう考えたときだった。空に映像が映し出されたのは。

『はじめまして人類の皆様。私は全能神ゼウスの妻、ヘラと申します。』

人間離れした美貌をもつ女神だった。

(神?つまり神がモンスターを生みだしたのか?それとも関係ない話……それはないな。)

 そう考えた俺は、周りへの警戒も怠らず、ヘラの話に耳を傾けた。

 『この世界はもう崩壊する寸前です。そこで私達は考えて思いつきました。私達が考えたのは時代の後退です。魔物という未知の生物を、ステイタスという恩恵を受けたあなた達が倒して、最終的に魔王達を倒してください。一ヶ月後に魔王は誕生します。世界を救うために頑張ってください。』

ヘラはそう言って映像を消した。

後の人々はこの日をこう呼んだ。


 ー【神々の黄昏】ー   

            

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