いきなり!プリンセス・ラビリンス
第51話
翌年。
12月17日の夜。
『シェアハウス深森』のリビングにて。
司君が企画したクリスマスパーティーが始まった。
「メリ~クリスマ~~ス!!」
胡桃がきらびやかな小人の衣装を着て、クラッカーを鳴らす。
「メリー・クリスマス…」
高野さんがそれに続けてクラッカーを鳴らす。…その音は残念ながら今年も不発だったが、トナカイの衣装はやはり高野さんにとても良く似合っている。
「おめでと」
燈子さんがクラッカーを鳴らす。そのサンタ姿は去年と同様大変シュールだったが、今年も嫌がらずに着てくれた燈子さんは、さすが我が『シェアハウス深森』の大賢者。
「メリー・クリスマス!!」
私も燈子さんに続いてクラッカーを鳴らした。サンタ衣装は2回目だが、去年は司君がいなくなって気が動転していたため、サンタ衣装を着た事は良く覚えていない。
この衣装、何だか妙に恥ずかしい。
「さぁさ、司君も!!ホラホラホラ~!!!!!」
トナカイ姿の司君は胡桃に無理やり渡されたクラッカーを、皆の真似をして天井に向け、勢い良く鳴らした。
パーン!!!!!
広々としたリビングの中は、今年もクリスマス装飾で豪華に飾りつけされている。
高野さんが中心となって5人で作った豪華なご馳走は、所狭しとテーブルに並んでいる。
「早速ゲームを始めようか」
高野さんから声がかかり、皆はテーブルに集まった。
高野さん特製のクリスマスプディングには、一番ラッキーな人にだけ当たるコインが1つだけ入っている。
誰がそのひと切れを取るんだろう!
高野さんは上手にそれを5等分に切り分けて皿に乗せ、皆に配った。ジャンケンでどの皿を取るかを決める。
「「「「「じゃーんけーん…」」」」」
「「「「「ぽん!」」」」」
燈子さん、胡桃、高野さん、司君、私の順番になった。
「これにするわ」
「私、これ~!」
「俺はこれ」
「僕、これにします」
「じゃあ私はこれ」
最後の一切れ。
全員、その皿を手に取って一斉に、キャラメル色の艶やかなプティングを食べる。
「あっさりしてるでしょ?」
料理の達人高野さんは、皆の表情を見回した。
「ホント!あっさり~」
「すっごく美味しいです、これ」
甘すぎず、さっぱりしてる!
「美味しいです!」
「いいじゃないか」
「良かった!」
美味しくて、あっという間に食べ終わりそう。最後のひと口を食べた瞬間。
かちっ!
音がした。
私は慌てて、口の中から銀色のコインを取り出した。
「あ~!沙織が当てた!良かったね!」
「おめでと、有沢さん」
「意外だったね。まさかアンタが当てるとは」
「…………ありがとうございます!」
嬉しい!
私がコインを当てちゃった!
つい、司君の方を見てしまう。
「おめでとう、沙織さん」
彼は柔らかい表情で、
優しく微笑みながらこちらを見てる。
ドキッと、胸が音を立てる。
「いい事が沢山あるといいね」
…………?
「ありがとう…」
もし私がコインを当てたら、すごく悔しそうな顔をするかと思っていたのに。
まさか…。
コインが入ってそうなひと切れを、わざと私に残しておいたとか…?
「さぁ~!ご馳走を食べるぞぅ~!!」
胡桃が嬉しそうに、料理を見ながら叫んだ。
今日は立食式。お腹が空いた時に誰が何を食べてもいいようになっている。
「今年の料理、気合入りまくっちゃったね~?全部食べられるかな?!!」
「大丈夫!今年は司君もいるし!!明日も明後日も食べればいいよ!」
「なかなか上手に出来たじゃないか」
トナカイ姿の高野さんがサラダに手を伸ばしながら、一番気になっていたらしい事を、恐る恐る口に出した。
「…今年もこの格好をさせられちゃったけどさ…食べづらいからもうそろそろ脱いでいい?」
「駄目ですよ~!今日は仮装したまま過ごす決まりですから!私がちゃんと腕まくりしてあげますよ高野さん、ホラホラホラ~~!」
とんがり帽子を被った小人姿の胡桃は、皿と箸で両手が塞がっている高野さんのモコモコした袖を、世話焼き女房の如くまくってあげている。
「あ、…袖まくる前に、高野さんの写真撮っとけば良かった~!」
サンタ姿の燈子さんはチキンを皿に取りながら
「後で袖を戻して、全員の集合写真も撮ればいいじゃないか」
と、まんざらでも無さそうな様子で、クールの方を見ながら微笑んだ。
「あ、それいいですね~!」
猫のクールも、クリスマス期間限定サンタ帽子とサンタ衣装を今年も着ている。胡桃はクールのあまりの可愛さに叫び声を上げながら、今年も写真を何十枚と撮っていた。
胡桃が私に笑いかけた。
「今年は司君も参加できたし。良かったね~、沙織!」
「うん!」
私は嬉しくなりながらテーブルの上にあるローストビーフを取って、ソースをかけて食べてみた。
何これ、すっごく美味しい!
高級ホテルのシェフが作ったみたい…!
「それ、僕が作ったんだ」
トナカイ姿の司君が、クールを抱っこしながらこちらに近づいて来た。
「本当?すごいね司君!とっても美味しいよ!」
「高野さんに教えて貰ったからね。味付けにはこだわりがあるよ」
司君はクールを床の上に降ろし、私を上から下まで見つめながら微笑んだ。
「沙織さんサンタ衣装、すごく似合うね。ミニスカートだし…もう最高」
私は顔が熱くなりながら、彼から目を逸らした。
「司君も似合ってるよ、トナカイ姿」
…どこを見ているんだろう!
「…恥ずかしいからあまり見ないで」
「…どうして?」
彼は私にさらに近づき、少しずれていたサンタ帽子を真っ直ぐにしてくれた。
「見ないでって言われても絶対無理。今日しか見られないんだから」
…顔がどんどん、赤くなってしまう。
「…………もう」
高校2年生になった司君を見上げてみる。『出会った時と比べて身長が10㎝伸びた』と最近言っていた。
「司君、今身長いくつ?」
キラキラオーラに磨きがかかった上大人っぽさが加わり、去年よりさらに眩しく感じてしまう。
「178㎝…かな。どうしたの急に」
私は以前よりもさらに、彼といるだけでドキドキしてしまっている。
「私の身長は変わらないのに、司君だけが成長しちゃって、…ずるいなと思って」
彼が大人っぽくなったからなのか、一緒に過ごすうちに私の恋する気持ちが巨大化したせいなのか、自分でも良く解らない。
「沙織さんは身長いくつ?」
去年の12月は、どうして今よりも平静でいられたんだろう。
「155㎝。去年と全然変わらないよ」
彼は何かを思いついた様子で、いきなりかがんで私のおでこにキスをした。
「…………!!」
「今のまま変わらないでいて、沙織さん。僕はこのくらいの高さが一番好き」
私は真っ赤になり、皆の方を見た。
他の三人は後でやろうとしている麻雀の準備をしており、こちらを見ていない。ちょっとホッとして、私は司君に向き直った。
「駄目だよ司君…!」
「…見られたっていいじゃない」
良くない。
彼は全く気にしていない様子で、私に聞いてきた。
「…沙織さん、明日の放課後予定ある?」
「『未来志向』のバイトは無いから、一緒に帰れるよ。授業が終わったら、図書館に行って待ってるね」
「うん、ありがと」
何か用事でもあるのかな?
「明日、何かあるの?」
彼はにっこりと微笑んだ。
「明日の放課後、僕は時間を戻します」
…………敬語?
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