第35話

 登校時、いつもと違う視線がこちらに向けられた。


「何か、おかしい……」

 司君は首を傾げた。


「そうだね……」


 それは登校している間中ずっと続いた。


 同じ七曜学園の生徒達からは興味本位でじろじろと見られ、あからさまに噂や陰口を言われているような気がした。


「沙織!」


 胡桃が駆け寄ってくる。


「胡桃!早朝練習は?」


 胡桃は大慌てで、スマートフォンの画面を私に見せた。


「それどころじゃない!二人共これ見て!!」


 気軽に誰でも呟くことが出来るアプリ『ツブッター』を、胡桃が開く。


『七曜学園生徒会執行部・公式アカウント』


 あ、このアカウントまた、出現してる。


 出ては消され、また別なアカウントから出ては消されを繰り返し、ますます七曜学園中の注目を集めている。


 『公式』とあるが、黒木君と生徒会が認めていないこのアカウントは非公式である。


 『公式アカウント』を名乗っていながら、生徒会役員達へのバッシングが多く、これは反・生徒会陣営が作っている悪質なものだ。


 胡桃が画面を開くと、衝撃的な画像が目に飛び込んできた。


 黒木君と私が、ベンチに座ってキスをしている。



 どう見ても、そう見える。



 ………??!!!!!!



「な、な、何これ………?!!!」



 司君も食い入るようにじっと、この画面を見つめている。




 思い出した。




 『ムーン&スター』に乗った後だ。




 黒木君と私は、ベンチに座りながら接近して話をしていた。『黒木君とは、付き合えない』って、その時彼に、私は伝えたのだ。


 写真は私の背後から撮影されている。


 黒木君が私の後頭部に触れ、体はほぼくっついた状態。彼は目を細めて私だけを見つめており、完全にキスをしている様に見えてしまう。


「一応聞くけど、土曜日にネズミーランドで会長とキスしたの?沙織」

 胡桃が直球で聞いてきた。


「してないよ!!絶対にしてない!!!」

 私は即座に否定した。


「………だろうね~」



 司君は言葉を失った様子で、ただその画面だけを見つめていた。



「司君、私、黒木君とキスしてないよ?!これは、そう見える様な角度でわざと撮られただけ………!」


「………そうですか」


 言葉が敬語に戻ってる。


「信じます」


 彼は私に顔を向け、透明な笑顔を見せた。


「行きましょう、沙織さん。遅刻します」


 表情が硬いまま。


「………」





 今、ゆっくり司君と話をしている時間が無いのが、とても悔しい。





 『要注意リスト』ナンバー2。

 『七曜学園生徒会執行部・公式アカウント』!!





 学校の中に入って司君と別れると、胡桃と一緒に教室の中でもう一度、この画面を読み込んだ。


 この手の攻撃は3回目。


 高校入学後、このページで過去2回黒木君とのデート写真をアップされ、ありもしない噂や悪口を散々言われた。


 自分から進んで『彼女のフリ』をしていたわけだから、仕方の無い部分もあったけど。


 だけど今回は、文章の中に私は実名を公表されており、完全なる悪意を感じる。


 『有沢沙織、生徒会長とキス』


 『二股女・有沢!!いかがわしい謎のシェアハウスで、噂の図書館王子と同居』



 司君の事まで、書いてあるし!!

 『シェアハウス深森』の事まで!!



 悔しい。




 自分が侮辱されるだけならまだいい。




 ………何より許せないのは、




 あの時の黒木君の想いを、

 こんな形で汚された事。



 キスなんて、していない。

 ただ大切にしてくれただけ。



 こんなやり方、酷過ぎる。



「………胡桃は信じてくれる?」


 胡桃はくるっと、こちらを振り返った。


「…当たり前だろうガァ!!!!!」


 わっ、豹変した!!!


「…あ、ありがとう!!」


 鬼の様な形相!!!!!


「誰か1人でも犯人見つけ出したら、タダじゃおかねぇ…!!ギッタンギッタンの、メッタンメッタンにしてくれる…!!!」


 …早くどうにかしないと、

 胡桃が暴れ出しちゃいそう!!!


 教室の中にいた同じクラスの女生徒達が、私の元に集まって来た。


「ねえ、有沢さん、これ見たんだけど、どういう事?」


 携帯電話を見せられる。


「これ、キスしてるよね完全に。ねえ、本当に有沢さん、二股かけてるの?」


 黒木君と私の、キス似画像。


「してないの。近づいていただけ。二股もかけていないよ」


「でもネズミーランドに2人で行ったんでしょ?今も付き合ってるの?!生徒会長と」


「…ううん」


「じゃあ『いかがわしい謎のシェアハウス』で同居してるのは本当?図書館王子の白井君と」


「うん、偶然だけど。同居する事になったのは」



 キャー!!



 聞いたー?!本当だったんだ!!



 同居?!!!二股?!!!!マジで?!!!!



 ………!!!!!



 皆はワイワイ、勝手に騒いでいる。





「沙織が二股なんてかけるわけないでしょ!!そのシェアハウスには私も一緒に住んでるの!!オーナーさんともう一人の大人も!!!」


 胡桃が援護してくれた。




 うわ!!!!

 増田さんも、『いかがわしい』お仲間?!!

 超ヤバ!!!!




 聞こえる様に陰で、誰かが言った。





 ………胡桃まで、巻き込まないで!!!






 怒りを言葉に変えてしまいそう。





 その時。






 校内アナウンスが流れた。









 『連絡します。今から、臨時全校集会を行います』


 風間さんの声だ。


 『全校生徒は速やかに体育館に集合してください。繰り返します………』






 臨時全校集会?!












 体育館に集まると、ステージに黒木君、水谷君、日野君、風間さんが現れた。


 水谷君が話を切り出した。


「こうして貴重な1時間目の冒頭を割いて、皆さんに集まっていただいたのは」


 ステージ正面に設置された大画面スクリーンに映し出された、『七曜学園生徒会執行部・公式アカウント』。


「このようなアカウントが出回っている件を早く、解決しておかなければならないからです」


 日野君は、視線をスクリーン移し、画面を変えた。


 黒木君と私がキスをしている様に見える写真が映し出される。




 …全校集会のスクリーンで、

 キス似画像公開!!






 恥ずかしい!!!






 私は目の前がグレー一色になった。








 …これではまるで、公開処刑!!!!!





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