025 倉皇

 〜ピス大陸・ビバ帝国〜


 ナツノの指示の元、ザルカ市へと向かったクロガネ班、ペノー市に残ったゲラビホ班は敵の襲来に備えて準備をしていた。


 ある1人の男がその様子を伺っていた。まるで襲いかかるチャンスを待つ野生動物のように。


「どうやら敵は、こちらの行動パターンを予測して動いているようだな。」


 市民に紛れ、タイミングを測っていた彼の名はアルベルト・フローリッヒ。ロスクルド帝国の兵士長だ。幼い頃、当時戦場と化していた貧しい村に生まれた彼は、戦争に巻き込まれ両親を亡くしてしまう。1人になってしまったフローリッヒも戦争に巻き込まれそうになったところを、当時のロスクルド帝国の王、ジャックに助けられる。それを機にロスクルド帝国の兵士として戦う事を誓ったのだ。


「フィリップのやり方にはあまり乗り気じゃないが、帝国のためなら仕方がない。か。」


 フローリッヒは冷静に状況を分析した。


「ザルカ市にいるやつはどうやら実力がありそうだ。奴とまともに交わるのは避けたほうがいい。ペノー市は守りが薄いな。セオリー通り攻めるならまずはここからだが……やはり司令塔は潰しておいたほうがいいな」


 フローリッヒは指示を出すナツノに目を向けた。


「さすがに隠れるのは上手いみたいだ、、が、この崩壊した街に隠れるとなると場所はだいたい決まってくる。」


 ここビバ帝国は以前の襲撃事件の修復がまだ間に合っていなかった。


「ここはまだ生き残っている建物が多い。お前たち、片っ端から店の中に入り、司令塔を探せ。見つからなかったら赤の信号。見つけたら緑の信号をこちらまで送るんだ。」


 これまた市民に紛れ込ませた部下たちに指示を出し、フローリッヒはその場を後にする。


「さて、後は…… 」



 フローリッヒはペノー市へと向かった。

 ゲラビホ班を始末するために。


 ナツノはとある喫茶店にいた。今の状況で外にいては目立つため、客のふりをして指示を出すことにしたのだ。


「敵がどんな戦い方をしてくるのか分からない、、相性によっては、クロガネでも歯が立たないことだって計算しなくてはならない。」


 ナツノは一度ゲラビホに今の状況を尋ねてみた。


 すると、一通のメールが届いた。


「ゲラビホ班は全滅。大人しく自分の居場所を教えろ。」


「ゲラビホ班が……全滅……? 」


 フローリッヒの元に信号が届いた。赤の信号だ。


「ちっ。まだ見つからないのか」


 また1つの信号。これも赤だった。

 すぐ新しい信号。これは緑。


「なるほど、そこか。」


 ナツノがいる喫茶店に客が1人また1人と入ってくる。


(やっぱりどこも潰れちゃってるから混むのかなぁ)


 ナツノは全く疑っていなかった。


 フローリッヒの指示通りに店の中に入ってくるロスクルド帝国の兵士達。

 彼らが全ての席を埋めたその時


 喫茶店は氷塊に包まれた。もちろん、ナツノも含めて。

 なんと、フローリッヒは自分の多数の仲間とナツノ、そして喫茶店ごと凍らせてしまったのだ。




 〜アメーメー大陸〜


 言葉の通じない彼らが襲いかかってきた。


「バンズ!ヤング!お前らの班はお前らで統率しろ!」


 槍のような武器を使う相手に対して、サンダースは素手で立ち向かう。

 素手。技を極めた者たちの中には武器を使わずに戦う者もいると言う話は有名だ。

 サンダースはその「極めた者」だったのだ。

 次々と相手をなぎ倒していくサンダース。サンダースのサポートをするバンズ、ヤング班。


 戦いがヒートアップしていく中、もう一つの敵が動き出した。



「そろそろかな」


 ロスクルド帝国のメロルだ。

 軽く屈伸をすると、今彼女がいる島からサンダースが乗っている船に向かってジャンプする。


 余裕の到着だ。思わぬ敵に船内はパニックになる。


「師匠!ロスクルド帝国が!!」


 サンダースが振り向いた時にはすでにヤングは海に沈められていた。


「おいおい嘘だろ!? 」


 サンダース隊、ヤマト王国、ロスクルド帝国の三つ巴になった中央大海のど真ん中。

 一体どの部隊が勝ち抜くのか。

 メロルはヤマト王国に目も向けなかった。まずはサンダースを処理することに決めたのだ。


 背後からサンダースの首を取ろうとしていたところ……


「ちっ誰だよこんな時に」


 すぐさま避難するメロル。確認すると


「ヒトミが殺された。私、逃げる。」


 メグミからの連絡だった。


 フメイ大陸でトゲゾウと対戦していたメグミは、ヒトミがやられる所を見ていた。


 ヒトミがやられた後、戦意喪失したメグミは、ロスクルド帝国に戻っていたのだった。


「ったく、あいつは、、 」


 メロルは目の前の敵を諦め、ロスクルド帝国の方角へと移動を始めるのであった。




 〜フメイ大陸・南デネグ共和国〜


「2人とも、大丈夫か?!」


 ハヤトが駆け寄ってくる。


「いてぇ…腕が動かせねぇ…… 」


「やっぱりハヤトは強いな。また助けられちまった。」


「みんな大丈夫か〜〜? 」


 トゲゾウだ。


「トゲゾウさん?もう1人のやつは?」


「あいつなら逃げちゃったよ」


 そこには、メグミの姿は無かった。


「あいつ、いつのまに……? 」

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