第12話


 町、というものが結局のところ何なのか、僕は未だにわからない。人がたくさん住んでいて、お店があって、学校があって・・・・・・そういったコミュニティを形成していたと物の本には書いてあった。定義はわかる。しかし、実感としては掴めない。

 今まで、町に住む人たちのことを考えたことはなかった。しかし、よく見てみると生活をするために必要なものはここに揃っていた。畑や厩舎がないのは困るが、近くに新しく作ればよいのではないだろうか。

 そこまで考えて、これが生活か、ということに気づいた。生きてゆくために食事をし、仕事をする。ここにないのは家庭だけだ。

 もし、車が他にもあるならここから畑に通えばよいのだ。もし魔物などいない世界だったら、そうしたい。しかし、この町という場所には恐怖が強く根付いていた。ここで生活するなど考えられない。

 町には穏やかでない動物も居着いている。猫なんかがそうだろう。大型のものだと、僕と近しい体長を持ち、動きは俊敏で獰猛、牙があり目が頭の後ろにもついているのでどんな獲物も逃がさない。奴らは肉食獣なので僕を食べようとするかもしれない。今のところ、人間を食べようとする気配はないが、彼らの狩りの現場を目撃すると戦慄する。野生の狩りというものは、こんなにも獰猛なのかと思い知らされる。飛び散った血と臓物の臭いが、一日鼻から離れない。次は自分がああなるのかと考えてしまう。

 お店で食べ物と水を手に入れると、少し余裕が出てきたのか、先ほどの魔物のことを思い出した。見た目は人間と同じだったが、様子が違った。魔物は人の姿に化けると祖父は言っていたが、人の言葉を話す魔物もいるのだということに驚いた。ただ、言葉に聞こえただけなのかもしれない。興味はわいたが、それでも魔物と関わり合いにはなりたくなかった。

 幼い頃から、祖父にいやと言うほど魔物の話を聞かされてきたのだ。悪いことをすると魔物に連れ去られ、臓物を喰らわれると脅された。魔物は臓物や脳が好物なのだそうだ。目玉はゼリーにしてデザートとして食べるらしい。

 あの魔物はどこから来たのだろうか。ふと見ると、車のタイヤ跡が伸びていた。これを追っていったら魔物の巣に続いているのだろうか。

 夜になると、僕はそこら辺から集めてきた木材を組んで火をつけた。こうしておけば、動物はよってこないだろう。毛布一枚あればよい。明日の朝、車がないか探そう。ガソリンスタンドにあったのを見た気がする。

 ああ、寂しいなあーー自然と独りごちていた。

「車が無かったらどうするんだ」

「おじさん。一体どこにいたんだ」

 おじさんが立っていた。いつも通り、穴の空いた帽子、ボロボロの軍手、目の覚めるような蒼い上着、いつも通りのおじさんだ。無精髭が伸びて、肌は脂ぎっていて汚らしい。だけど、そんなおじさんの風貌に、僕は安堵した。

「まあちょっとな。それより車が無かったらどうするんだ」

 おじさんは炎の前に座った。上着のポケットからスルメを出して、炎であぶった。熱くないのだろうか。

「馬にでも乗るよ」

「お前、馬に乗れたか」

「やってみなくちゃあわからないだろう」

「たしかに。やってみなくちゃあわからないさ」

 僕は毛布にくるまった。久し振りにおじさんに会えたからだろうか。安心して目をつぶるとすぐに眠りに落ちた。

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