変わった事

 「おはよっ……黒崎君」 と、山岸さんがとびきりの笑顔で挨拶の言葉を投げかけてくる。




 この前まで元気がなかった分……


 いつも以上に輝いて見えた……その原因は僕にあるんだけど




 僕は、「おはよう、山岸さん」 と笑って返事を返す






 そのやり取りを見た教室中の生徒達が


 僕達のやり取りを信じられないというふうに


 目を見張っていた。




 確かに昨日までの僕達を皆見ているのだから


 そう思われても仕方ないのかもしれない。




 「ねぇ……山岸さん」




 と、僕達の元に金髪君……もとい


 天道が、山岸さんに話し掛ける。




 「なんで、そんな奴に話しかけるんだよ


 ずっと話し掛けてなかったじゃないか」




 と、何やら面白くなさそうに言う天道




 山岸さんは彼の言葉に首を縦に降る。




 「うん、だけど昨日話し合って……


 それで誤解が解けて友達になったんだ」




 と、山岸さんは天道に胸を張って告げる。




 そんな風に大々的に言われると照れてしまう……




 「だが、そいつは……害でしかない存在だろ?」




 天道は嘲笑とも取れる笑みを浮かべながら言う。






 「……黙って」 と山岸さんは静かにけれどハッキリと口にする。




 「は?」 と、天道は間抜けな声を上げる。




 「黙ってって言ってるのっ!!」




 山岸さんの物凄い剣幕に天道はおろか


 その場にいる全員が息を呑む……と、言う僕もビックリしてるんだけど




 「黒崎君は皆が思ってるほど、嫌な人じゃない……


 これ以上私の友達の悪口言うなら許さないよっ」




 と、天道をいつもからは考えられない鋭い眼差しで睨みつける。 




 「本当に……どうしたんだよ?」




 山岸さんの態度に驚く天道……




 「いつもの君らしくない」




 諭すように山岸さんに告げる天道……




 彼女はその言葉に左右に首を振り




 「これが、本当の私だよ」




 と、満面の笑みで答えるのだった。




 「黒崎君の事も、そして私の事も上辺でしか見れないなら


 人付き合い……ちゃんと、考えたほうがいいよ』




 と、満面の笑みを維持したまま告げる山岸さん。




 いやいや、そこまで言うことは無いでしょ……




 色んな意味で、山岸さんに驚いたのと同時に




 学校の始まりを告げるチャイムが鳴り響くのだった。




◇◇◇◇◇




 チャイムがなって、皆席に着いたと言うのに一向に中山が現れない。




 昨日の件があるから教室に来辛いのかもしれない……いやいや




 中山、いい年したおっさんでしょ……来辛いって




 そんな事を思っていると、前列側の出入り口の引き戸が開け放たれる。




 僕は扉を開け放った人物を見て、目を大きく見開き驚愕する。


 そこにいたのは……なんと、美紗ねえだった。




 「よし、皆席に着いてるわね」彼女は、


 教室に一歩足を踏み出し一度、立ち止まって全体を確認すると


 再度止めていた足を教卓に向けて動かす。




 教卓に着いてから、美紗ねえが全体に目を配りながら




 「突然だが、中山先生がこの学校を辞めていった」




 と、突拍子のない事を冷静な口調で言い放つ。




 瞬間、教室中がざわめきだす。




 僕の周囲では、「なんで、中山急に学校辞めたんだろう……」


 「え? じゃあこのクラス……どうなっちゃうの?」




 という話が小声で展開されていた。




 僕は僕の席とは反対側の山岸さんに目を向ける。




 まぁ当然だよな……まさか、昨日の今日で


 すぐ辞めるとは思わなかったけど




 結局の所僕は証拠として撮った写真や音声データを


 学校に提出する気は無かった。




 勿論、山岸奏が望むのならそうしようと思った……だが


 昨日その事を告げたら彼女はその提案を拒否した。




 理由を訪ねたら、こんな目に遭ったのだから


 もう手を出してくることはないでしょ? という理由だった。




 流石山岸さん……彼女だったら


 そう言うだろうなと思っていた。




 彼女は、周りに嫌われたくなくて


 周りに気を遣ってばかりだったというが、




 元々が、根の優しい性格をしているのだと思う。




 「はい、静かに」 と美紗ねえは


 手をパンパンと叩きながら皆を静かにさせると




 「そこで、急遽……私がこのクラスの担任を受け持つことになった」




 マジか……あれ、でも?




 「先生、なら保健室はどうするんです?」




 と、最もな事を質問する女子……髪が亜麻色に染められており


 可愛いというより綺麗だなとその人を見て僕はそんな印象を抱く。




 「その辺は、大丈夫よ」 と




 美紗ねえは、腕組みをして何度も頷きながら返事をする。




 「私が、このクラスを請け負ってる間、


 他の教師が就くことになってるわ」




 では、その教師がうちのクラスを受け持てばいいのでは?……と


 思うがそこは……僕達の知る由もない大人の事情という物があるのだろう。




 「あくまで、正式にこのクラスの担任が


 決まるまでの間よ、宜しくね……では解散」




 そう告げると美紗ねえは教室を後にする。




 まさか、美紗ねえが担任になるなんてな……




 僕は、窓から覗く青空を眺める。




 二週間前からだが、僕の日常は変わっていった。




 変わった事といえば、今をもってクラスの担任が


 美紗ねえになった事もそうだが一番は……




 『……友達になってくれませんか?』




 山岸奏が、僕の友達になった事だ……




 彼女と関わるようになってから


 僕の中でちょっとずつ変わっていった気がする。




 元来変化という物を僕は嫌うが、これはこれでいいなと感じる。




 願わくば、この関係がずっと続いて欲しいと


 空を眺めながら思う僕なのである。


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