第17話 答え合わせ
弁当とたたき○が揃ったので、美岬がお茶を淹れてくれた。
俺たちは、夕食の会場作りとクリーニング。
棟が替わったので、盗聴器の有無とか、調べないとだからね。
これをいつもやっていると、たまに壁に掛けられた絵の裏にお札を発見したりして嫌な気持ちになることもあるけど、まぁ実際に盗聴器を発見するよりはマシだ。
テーブルやベッドまで動員して、みんなで顔を見ながらご飯食べられるようにする。今朝までは、四方に目を配れるように背中合わせでご飯を食べていたことを考えると、真逆だよ。
気が楽になっていると、食事も美味しく感じる。
嗅覚が戻ってきて、くさやの香りがきついけど、これも島の香りだ。
「俺たちの想像を話します。
違っていたら、指摘してください」
慧思が言う。
久野さん、たたき○を口いっぱいに頬張りながら頷く。
なんか、統一感のない化粧だなぁ。あまりこういうことは言わない方が良いんだろうけれど、どこで一回教えて貰った方が良いと思う。部分部分、厚塗りが過ぎてるし。
まったく、根本的に女子力に問題があるよ、久野さんも、
「今回の敵、西の対象国由来で、でも、西の対象国に敵対するもの、で間違いないですか?」
「さすがです」
「で、昔からあったんですか、その組織?」
「私は、まだこの組織の記録を全部読んでません。
長野まで行かないとなんで、なかなか時間が取れなくて。
でも、調べた範囲でも、明治までは同じ色の事件がありました」
「色?」
「はい。
他の人には解らないそうですね、色。
でも、私には黄緑色の事件記録なので……」
明治か。
ということは、それ以前からあった組織ということになる。
で、考えてみれば反○復□から反△共復□を目指している組織であれば、日本ならば徳川家光の時代以降にできたはずだ。明治に痕跡があっても驚くことではない。
慧思が続ける。
「……そうですか。
想像もできませんが、藪には蛇がいましたからねぇ。
で、その黄緑色の事件を再調査していたら、向こうの張っている網にかかった、ということですね」
「はい。そういうことです。
当然、その事態も予測していましたが、まさか積極的に穴から出てくるとは思いませんでした。今までも、こんなあからさまに存在をアピールしてきたこともなかったのです。二次大戦後にいくらか活動が活発化した以外は、極めて消極的組織と言えるでしょう。
それだけ地に潜っていたので、実働部隊を失い、構成員が自ら手を下す以外の方法がなかったのでしょう。
『つはものとねり』も、幕末以前はこんな感じだったかもしれませんね」
なるほど。
そう考えると、解るものがある。
スポンサーと意思決定する上層部しかいないんだ。非常時は、自ら出ていくしかない。傭兵を雇うにしたって、身元を完全に隠しての仕事の依頼はできないからね。
だから、親子で構成員になっている人たちの中の、その息子たちに襲撃実行要員のお鉢が回ってきた。
そうか、そうならば、当然のように軍関係者もいて、指揮も装備も考えるだろう。組織として、いびつに見えた理由が解ったよ。
きっと、委員会みたいな円卓運営をしているんだろう。
たぶん、地に潜りすぎた組織では、スカウトもそうはできないだろうし、親から子への相伝で組織は保たれてきた。それ以上人数は減らないけど、減らないだけだ。
小田佐の言葉が蘇ってきた。
「彼奴等の身元を知ったら、青くなるぞ。だが、先々まで、貸しを作れた」
これって、襲撃してきた連中の親の方がさらに
「アメリカが建国して、そこへ移民で行った連中の中に今回の組織の核があった。当初は三共門とも関係が深かった。
そちらは今でも表に出て活動しているけど、当然のようにより潜ったグループもいた。
で、現地で混血も進み、一族に白人が入るようになった。しかも、アメリカという国も利用しようというのだから、より積極的に血を取り込んだんでしょうね」
久野さん、見て来たように言う。
なるほど。
あとはもう、想像がつく。
西の対象国は、現在世界を敵に回しつつある。
もしかしたら、四百年来の夢が叶うかもしれない時が来た。一番大切な時だ。
それなのに、日本の組織に存在が気が付かれてしまった。そして、その日本の組織はアメリカの諜報機関とのパイプが太い。
アメリカ国内での対処は、自分たちの存在を明らかにしてしまう可能性がある。まずは、日本の組織が公的に位置付けられていないのをいいことに、たとえ一時的であっても空中分解させ、アメリカへの情報提供ができないか、できても信頼性が劣る情報にする。
で、同時に、こちらに対するカウンターを打ち、久野さんが調査の中心にいることを判明させたのだろう。
となれば、次に辿り着くのは美岬だ。
住み込みでハードな訓練をしたことがあるからね。で、事故、事件でなく美岬の退場をする方法として、一服盛った。俺も、それに関係して退場させられる予定だった。
俺がいなくなれば、慧思もいなくなるのと同じ。自分で言うのもなんだけど、『つはものとねり』のエース級バディがいなくなるということだ。
……ドライで買収しやすいのを組織に入れるほど、危険なことはないのにな。
で、その穏当な作戦が失敗したので、アメリカにご注進に行かれる前に口を封じようとした。練度が低いので、十八人で四人を襲うという判断は間違いではない。
ただ、その十八人があまりに簡単に手玉に取られたので、次の二十二人を派遣した。それも全員捕らえられたので、もうこれで作戦実行が可能な年齢層は尽きている。
親の世代は、慌てふためいている。
おお、あれほど謎だった事柄に、筋が通ったわ。
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