第11話 飼いならす


 ムロアジをすべて捌き、強めの塩をして、冷蔵庫に放り込む。

 それから、鎖骨が折れている奴の手当を始める。

 とはいっても、レントゲンとかで患部が見れるわけではないから、胸を反らせて固定する一般的な方法をとるしかない。あとは、開放されたら医者に行け、ということだ。酷くなることがないように、応急手当だけはしておいてやる。


 嫌がるのを押さえつけて痛み止めを飲ませ、トイレにも行かせる。当然のことだけど、ドアは閉めさせない。

 そのあと、順繰りに全員の服装をもう一度チェックする。発信機の類も、すべて外すだけ外す。なかなか凝ったことをしていた奴もいたけど、俺たちにとっては見破るのはそう難しいことではない。

 外したあとの、破壊は振りだけだ。ここの状況はあえて筒抜けにするのだ。

 最後に、トイレも済まさせて、再度縛り上げる。

 何人かは、細い糸だから切れるかと頑張ったのだろう。手首が血まみれになっていたのもいるので、消毒をしておいてやる。

 しかし、八号のPEの糸は、本当に強いな。二重にして二括りしているけど、完全に固定している。しかも、食い込んで痛いから、力が入れられないようだ。


 しかし、12人というのは多い。これだけで、半日弱が過ぎてしまったよ。


 その間に、ムロアジがいい感じに水気が抜けた。

 美鈴メイリンが、食料に持ってきていた小麦粉を手早く捏ねてくれた。

 その上にオリーブオイルで洗ったムロアジの塩漬けを乗せ、トーストを焼くような簡易なオーブンと、ガス台のグリルで二段構えに焼く。

 焼き上がったものに、生トマトのざく切りを乗せて、アンチョビ風のムロアジのピザが完成。


 それを、美岬と慧思、美鈴で軽く食べる。

 そのあと、一人ひとり、人質の猿轡を外して、同じものを食べさせる。拒否する奴には、頭に銃を突きつけた。

 なかなか反応が面白い。

 どれほど拒否していても、一口食ったら、二口目以降は自分から首を伸ばしやがる。

 「旨いか?

 旨いだろう。しっかり食え」

 そう声掛けしながら、体力を維持できる量は食べさせる。

 おまけに、ピザ食って、泣く奴が出るとはね。こいつらの、訓練の度合いがバラバラだというのがよく解るよ。良くも1つのチームを組んだもんだ。


 事態が動かなければ、食料備蓄があるのをいいことに、こいつらを飼いならす。

 訓練を受けた者が、ストックホルム症候群に短期間で誘導されるとは思っていないだろう。だから、あえて発信機の類は壊さなかった。

 そもそも、6人が投降したのだって、俺たちが人質を養うことにかまけてしまうことを期待したからだろうし、もはや監視もされていないと誤解させる罠だ。だから最初から、監視の目が緩まない前提でいる必要がある。

 

 でね、外でモニターしている連中に、傷の手当をしたのは聞こえているだろうし、ピザ食って泣く奴が出たのも聞いているだろう。それをここを監視している方はどう思うかということだ。

 焦って動き出してくれればめっけもんだし、動き出さなければ人質の中で仲違いをさせればいい。そもそも揃っての統一的訓練をまともにしていないのだから、隣で転がっている奴を信頼していないはずだ。

 それも上手く行かなければ、発信機で聞こえるように、順繰りに人質を全員やればいい。

 どう転んでも、こいつらが俺たちに、「情報」という名の果実をもたらしてくれるだろう。

 ただし、俺と慧思は、数日の徹夜を覚悟しないとだけどね。



 外が、暗くなってきた。

 全員をもう一度、トイレに行かせる。こうしてトイレの機会を設けているのだから、イレギュラーな場合は漏らせと言ってある。優位がどちらにあるかを、きちんと認識させなければならないからだ。


 晩御飯は、大鯛を使って、寿司。人数もいるから、楽な料理がいい。水も飲ませなきゃだ。

 こいつら、ピザは喜んだ。

 寿司も喜ぶようならば、アメリカ辺りから来たという線が濃くなるな。




 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました


第二章12話の抜粋を、degirock様(https://twitter.com/jonn_rock/)に朗読していただきました。

泣けます。ぜひどうぞ。

https://twitter.com/RINKAISITATAR/status/1319275119198433291


アンチョビと生トマトのピザです。

https://twitter.com/RINKAISITATAR/status/1319174309068173313

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