第15話 科学技術の意義
影響、あるなんてもんじゃなかった。
骨の髄まで理解した。了解した。
アメリカ様に逆らってはなんねぇ。
あいつらが自信に満ちているわけが解った。
アメリカ人は、そのほとんどを自分の手で作り上げている。
X−35があった。次期空自導入機の原型となった試作機だ。トムキャットもあった。
ライト兄弟のライトフライヤー号から、超音速機、スペースシャトルに至るまでが展示されていた。
そのスペースシャトルの見上げんばかりの大きさと、完成度。その完成度と相反するような、宇宙までの往復を保証する無骨さ。
どっかの国からロケットを買って飛ばし、自国での打ち上げ成功なんて言っている国には、決してたどり着けない高みにある領域。
日本もオリジナルのロケットを飛ばしていて、その展示もあった。そういう意味では日本も捨てたもんじゃない。けれど、その規模においては、残念ながら日本は太刀打ちできない。
技術ってのは、規模がある程度以上大きくなると、自動的に深化するんじゃないかと思った。その点において、日本の精鋭をとことん先鋭化する方法論では、永遠にアメリカに勝てないのではないかという、深刻な疑問を感じた。
− − − − − − − −
博物館内のマクドナルド。
金属の丸いテーブルが並び、航空宇宙博物館らしいと言えば言えるけど、それ以上に殺風景。
昼飯のハンバーガーをぱくつきながら、美岬が言う。
「ビドルが日本に来た時、その戦艦をみてこんな気持ちになったのかな、ご先祖様も……」
慧思は、ポテトを紙の容器から、ざらざらとそのまま口の中に流し込んでいる。
激しくお行儀が悪いな、お前は。
ポテトで口の中をいっぱいにしながら、それでも慧思は興奮してしゃべる。
「グレッグの分かったような顔にムカついたけど、仕方ない、あの顔させておくしかないよ」
昨夜、いや、飛行機に乗って以来、ほとんど飯が喉を通らない俺も、日本のマクドナルドよりも作りが粗いハンバーガーを持て余しながら言う。
「宇宙食になんでM&Mなんだよ? なんで、そこまで自分たちの生活を、そのまま宇宙にまで持ち込もうとするんだ? で、なんでそれが可能になるほど豊かなんだ?」
会話としては、成り立っていない。
成り立っていないのは、三人とも分かっていて、それでいながら黙ってもいられないほどのショックだった。
「石田佐の言いたいことも、グレッグの言いたいことも、日本の立場も、とねりの立場も、みーんな今までの理解をご破算にして考え直さなきゃな……」
半ば呆然と俺。
慧思が、いつものように茶化すでもなく、やはり半ば呆然と返す。
「ああ、でも、救いもあった。宇宙に出かけたカメラはニコン製だったぜ。
ところどころだけれど、日本の技術の意地みたいなものも感じたよ。アメリカオリジナル以外は、ロシア、ドイツ、日本、少々の英仏以外は展示対象になるものがないのかもしれない」
「桜花には、泣きそうになったけれどな」
「ああ。科学技術と物量の差を、根性でなんとかしようというのは、悪い癖だと思ったよ。
本当に、よく解った。
根性論、精神論は物量に絶対勝てない。少なくとも、安全保障を考える者が陥ってはいけないことは確かだ。
それに、根性論、精神論は大切だけど、物量戦ですり減らしていいもんじゃないよ。別のところで使うべきだ」
お前の、そのポテトの食べ方、やけ食いなのか? もしかして。
「現在、世界でこれだけのことがこの規模でできる国は、アメリカしかないんだよね?」
美岬も言う。
「でも、日本とかドイツとかは突出している得意科目があるから、まだいいのかも」
「そうだな。そのアドバンテージをどこまで守れるかだなぁ」
ため息。
「ドイツは二次大戦の敗戦がなかったとしても、ロケットやジェットの技術、いずれは取られて逆転していたと思うよ。それだけの地力がアメリカにはある。
でも、たとえそうでも、突出した部分が維持し続けられれば……」
「ええ、その辺りに日本が、アメリカと協力できる活路がある気がする」
そうだな。美岬の言うとおりだ。
国力というものについて、より深く考えないといけないよなぁ。
その上で、彼我の戦略を立てなければならないよな。その前提において、今まで大きく誤解をしていたと思うよ。
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