第37話 追いつけたか?


 あいつら、藤岡インターを降りるようだ。近くのヘリポートまで回ると時間がかかりすぎる。坪内佐に連絡し、近隣のドクターヘリの離着陸設定がしてある場所を探すとともに、車の確保をお願いする。

 ヘリを降りたあとに、周囲に特徴を記憶されないため、腕を吊っている布を外す。

 思っていたより痛み止めが効いている。

 無理はできないだろうけど。


 着陸場所は、インター近くの実業高校の校庭だった。

 そこにはすでに、先発して待機していたとねりの運転する乗用車と、それを先導するパトカーもいた。坪内佐は、連中が北へ逃げると踏んで、要所要所にとねりを先行させていたのだ。もう一機に乗っていたバディはパトカーに乗った。最初から警官は乗っていなかったらしい。


 担架に乗せられた病人? が、入れ違いに運び込まれる。ドクターヘリの出動と偽装するためだ。もっとも、着陸したのは二機、つじつま合うんだろうか? かなり遅い時間だというのに、周囲を野次馬の高校生が数人取り囲んでいる。


 隣の市だし、知り合いがいるとも思えなかったけれど、顔を見られないようすぐに乗り込んだ車の中で言う。

 「なあ、慧思、なんか遠くに来ちまったなぁ」

 慧思は無言で頷く。

 自分も高校生で、ここで部活をしていてもおかしくないということに、いまさらながら気がついたのだ。

 野次馬の高校生たちは、潮が引くようにいなくなった。校庭にはナイター設備があって、遅くまで部活に残っていた生徒がいたらしい。対外試合が近いのかも知れない。


 なんか、泣きたいほど切ない。

 俺たちが着ているのは、黒くて動きやすさ優先の機能的な服。だけど、野球やバスケットのユニホームであってもおかしくなかった。

 そして、美岬は、小学生の時からずっと、この切なさを抱いてきたんだと思った。あの頑なさの源をも、改めて理解したように思う。


 必ず、助ける。

 美岬を不幸にしない。

 ああ、美岬の母親も坪内佐も、これが終わったら高校生に戻れと言ってくれていた。なんか、その意味というか、思いやりのようなものの意味とありがたさを、今ほど実感したことはなかった。


 学校を出て、数百メートル離れたところからパトカーのサイレンが鳴らされた。まわりの車が止まってくれ、ぐんぐん距離を稼ぐ。当然、赤信号もお構いなした。

 警察の手が本当に借りられればいいのに、それはできないってのが悔しい。外国のスパイをスパイだからって、逮捕はできないんだ。もちろん、駆け引きもあるけれど。

 なんとか、間に合ってくれ。

 その願いだけが頭の中でぐるぐる回っていた。



 逐一、相手の位置の連絡が入る。止まったらしい。

 同時に、その周囲の封鎖が始まっているとのこと。銃の使用が想定されることから、一般市民から現場を隔絶させる必要がある。

 ただし、今回は、まわりに人家もないうえ、相手の方から人目につかない場所に潜り込んでくれたことから、封鎖にかかる時間は極めて短くて済みそうだとのこと。


 パトカーがサイレンを止めた。周囲に車もなく鳴らす必要もない。あと数百メートル。

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