第6話 抵抗
武藤の頭から麻袋が外れているのを見ても、黒ずくめで四角い顔の男たちは表情を変えなかった。
それによって、処理する手間が増えるわけでもない。縛られた大男と、訓練を受け武装した複数の男では、なにかを考慮、検討する必要すらない。
一人がぎょっとするほど長いナイフを取り出すと、美桜に向かった。
それを見た武藤は、一瞬で逆上した。
視界は真っ赤になり、論理的に考えることなどできなくなった。
“こいつら、美桜を殺す気だ”
“絶対、許さない”
“美桜の最後の一言すら邪魔しやがって”
“絶対、許さない、絶対にだ!!”
“美桜は、お前らには渡さない!”
おそらく、その男は美桜を連れ去るために、柱に縛り付けられたロープを切るためにナイフを出しただけだったのだろう。
だが、後ろ手に縛られているとはいえ、二メートルもの大男が全力で突進してくれば、銃を抜くのも間に合わず、そのナイフを使うことになった。
ナイフは、正確に深々と武藤の脾臓を抉った。単に刺すのではない。出血量を増やし、内臓を破壊する徹底したやり方だった。だが、武藤は腹を抉られながらも、男を美桜のすぐ横の壁に押し付け、自由になる頭を相手の顔に叩きつけた。
武藤の頭突きと壁に頭を挟まれた男は、折れた鼻から鼻血を吹き出して昏倒した。武藤は、脇腹からナイフを生やしたまま振り返り、体内に広がる熱さに耐えながら、美桜の前に立ち塞がった。
もう一人の男は、サプレッサー付きの銃を抜いていた。
武藤に向けて立て続けに射つ。
そのとき、茶色い閃光が、男と、美桜、武藤の間に割り込んだ。
鎖を抜け出した犬の太一の頭蓋が、複数の.32ACP弾を受けて弾けとび、血と肉の破片が美桜にまともに降りかかった。
そして、左肩から胸、腹にかけて、四発が武藤の体に食い込んでいた。
武藤は、それでも倒れなかった。
一転して体内に生じた猛烈な寒さに耐えながら男を睨みつけ、血泡混じりに吠えた。羆の咆哮だった。
野生動物が心臓を撃たれてさえも数分は活動し、ハンターに逆襲して道連れにするのと同じことが起きていた。.32ACP弾では四発をもってしても、武藤の体と精神に対してストッピングパワーが不足していたのだ。
恐怖に駆られた男の指は、痙攣するようにトリガーを引き続けていたが、もはや弾は撃ち尽くされていた。
死に瀕して動けない武藤と、あまりの恐怖に動けないままの男は、一分以上もそのまま睨み合っていた。
不意に玄関から、きびきびとした日本語の声が響き、いっせいに男たちがなだれ込んできた。
武藤は振り返り、血まみれの美桜を見、絶望の表情となって崩れ落ちた。
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