第24話 息を殺せない暗殺者

「何かさぁ〜、この3人で歩いているとさぁ、人間っぽく見えるの俺だけだと思うんだよな」


バンプがいきなりなんか言いはじめた。


「そうか?」


「そうだろ!!!どこからどう見てもよぉ〜!!!右向きゃ紙袋、左向きゃロボット。そりゃあさ、俺は分かっているよ。2人とも人として、人の心を持っているってことも。分かっているよ。でもさぁ〜、現実の話さぁ〜・・・」


「お前、本当どうしたんだよ」


「実はですねモカ殿、先ほどの村で、バンプ殿が村の人たちに"頑張ってね骨董品コレクター様ぁ〜"と言われているが聞こえてしまいまして。きっとそのことを引きずっているのではござらんかと」


「それで、傷つくのって普通俺とお前じゃないの?」


「・・・、確かにでござる」


「違うだろぉ〜!!!俺だよ!!!俺、マジシャンなの!!!世界一の剣豪を目指しているマジシャンなの!!!せめて剣豪様ぁ〜ならわかるよ!!!この服みろよ!!!思いっきしタキシード着てるだろ!!!なのに骨董品コレクターって何???いや、別に骨董品コレクターをバカにしているわけではないよ!!!でもさぁ〜、マジシャンってことが俺のアイデンティティでもあるわけよ!!!ねっ?ねっ?わかる」


「あぁ」


「わかるでござる」


モカとロボ人は棒読みでうなずいた。


「せめて司会のお兄ちゃんとかでしょ???だってタキシード着てるんだよ!!!結構マジシャン連想させる属性ついてるよ!!!それでも骨董品コレクターって言われるってことは、お前らの個性が強すぎるってことなのよ!!!俺の個性が霞んじゃってんの!!!見たでしょこの前のトツペ村での俺のマジック!!!村全体が沸いてたでしょ!!!みんな盛り上がってたでしょ???」


「しかし、モカ殿の花火の方が盛り上がっていたでござる」


「いやいやいや、ロボ人の火渡りだってバンプのマジック以上に盛り上がっていたぞ。・・・・・あっ・・・」


ズーーーーーーーーーーーーーン⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎


「そうだよ。どうせ俺はキャラが薄いよ!!!どうせ俺ははたから見ればお前らの引き立て役だよ」


「骨董品コレクターから引き立て役になってしまったでござる」


「もう、それ以上言ってやるなよロボ人よ」


「バンプ殿、そなたの先日のコンロとの戦い見事であったぞ!!!拙者は感動したのでござる。こんな強い方と一緒に旅ができたらどれだけ楽しいだろうと思ったのでござる。周りの声に流されてはいけないでござる。バンプ殿は立派なマジシャンであり、とてもカッコイイ剣豪でござる。自信を持ってくだされ」


「いや、そんなことないよ。俺はキャラが薄いんだよ!!!お前たちのキャラには到底及ばないんだよ。見た目が人間すぎるんだよ」


「そんなことはございません!!!バンプ殿はキャラが立っているでござる。茶柱よりも立っているでござる!!!」


「本当にぃ〜?茶柱より立ってる???」


「茶柱より立ってて嬉しいのか???というより茶柱より立っているって何???」


モカは素直にそう思った。


「もうギンギンにキャラが立っているでござる!!!」


「ギンギンに?」


「ギンギンのザギンに立っているでござる!!!」


「ギンギンのザギンに?」


「そうでござる!!!凄いのでござる!!!」


「・・・そうだよな!!!そうだよな!!!俺キャラ弱くないよな!!!」


「そうでござる!!!その通りでござる!!!」


「ロボ人ありがとう!!!俺頑張る!!!」


「その意気でござる!!!」


「俺、マジシャンに見える?」


「見えるでござる!!!」


「俺、剣豪に見える?」


「見えるでござる!!!」


「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!元気出てきた!!!オラオラオラ!!!どんな強敵だってぶっ倒してやるどっからでもかかってこいやぁ!!!!」


「その意気でござる!!!!」


「モカさっきは言いすぎて悪かったな。心配かけちまったかもしれないけれど、俺ならもう大丈夫だから気にしないでくれ!!!さぁ、じゃんじゃん旅を進めようぜ!!!」


「・・・・・。こいつは問題が何も解決していないことに気づいているのか???」


そんな言葉をつぶやいたモカであった。


そんな3人に向かって、前から自転車に乗ったおじさんがやってきた。頭にねじりはちまきをしている。知人ではないが、"ゲンさん"って名前っぽそうな人であった。何だか今まで見た時より表情に余裕があるではないか。そのことにいち早く気がついたモカ。その理由はすぐに解決された。何とおじさんの自転車が電動になっていたのだ!!!これなら漕ぐ力もあまりいらない。だから余裕のある顔をしているんだなと理解した。そして、そのおじさんは、モカと通り過ぎる瞬間に少しだけ立ち止まり、「COFFEE BEANSを探しているんだったら、この先の街に行ってみな!」と、だけ言い残し去って行った。"なんだ、あのおっさん?"と、心の中で思いながらモカは、おじさんが教えてくれた方へと向かった。


「おっ!!!村が見えてきたぞ・・・。でも・・・」


"ゲンさん"っぽい名前のおじさんに出会ってから間も無くして一行は街を見つけた。それは今までの村とは違い、遠目からでもわかるほどに大きな街で、高い建物もたくさん見受けられた。しかし、その街を見つけたバンプはその異様な空気にいち早く気がついたのである。


「この街何かあるぞ・・・」


バンプがみんなに言った。


「まぁ、街なんだから何かしらはあるだろ!!!逆に何もない街を街と呼ぶ方が俺には不気味に感じるがな」


「お前、もう少し素直になれば???」


「ふんっ!!!全部思ったことを素直に言っただけだ」


「ハイハイ!!!で、どうする???行くか???」


「愚問!!!行くに決まっている。面白そうな予感しかしない!!!」


「ちょっと不気味ですが行ってみましょう!!!」


「みんな油断はするなよ!!!この雰囲気だと入った瞬間に攻撃されるなんて事もありえるぞ!!!」


「俺は別にそれでも構わん!!」


「拙者も望むところでござる!!」


「それこそ愚問だったようだな。よしっ!行くか!」


モカたちは不気味な雰囲気漂う街へと向かった。そして門番に軽く会釈して街中へと向かった。その街は今までの村とは違い、門番が無線のようなもので通行人たちが通ったことを監視室にいる係りの者に報告するというセキュリティシステムを組んでいた。


「骨董品コレクターとそのアイテムと思われる紙袋とロボットが今通過しました」


グハァァァァァァァァァァァァ!!!!!


バンプは街に入る前に攻撃を食らった。




いざ街に入ると物理的な攻撃を誰かから食らうというようなことはなく、ゆったりと街中を歩けた。モカたちはこの広い街を探索することにした。


「至って落ち着いた村だよなぁ〜」


「そうでござるな・・・」


「さっき外から感じたあの雰囲気はなんだったんだろう」


「もう少し街を回れば、何かわかるかもしれませんぞ」


そう言うとモカたちは街の中心にある大きな広場にたどり着いた。そこには大勢の人が集まっていた。


「さぁ!!!!!もう挑戦者はいないのかぁぁぁぁ!!!!!!」


ウォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!


会場は異様な盛り上がりを見せていた。よく見ると広場には大きなステージがあり、タキシードを着た司会らしき男と屈強そうな男がひとり立っていた。


「本日9連勝中のミーゴ選手!!!次で10連勝!!!この大会始まって以来の快挙、チャンピオンの座へあと1歩と迫っています!!!さぁさぁさぁ!!お前らこのままでいいのかぁ!!!お前らの税金がこのミーゴの懐に入っていくんだぞぉぉぉぉぉぉ!!!!それでいいのかぁぁぁぁ!!!誰か腕に自信のあるやつはいないのかぁぁぁぁぁぁ!!!このままだと100万マーメがミーゴのものになってしまうぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


「なんか面白そうなことやってんじゃん!!!俺行ってこようかな!!!」


「拙者も参加したいでござる!!」


「お前ら待て!!!先客だ」


『えっ???』


バンプとロボ人の声が揃った。そう、司会が自分のマイクパフォーマンスに酔っているうちに、壇上に一人登っていたのである。しかし・・・。


「あれれぇ〜、お嬢ちゃんどうしたのかなぁ〜。こんなとことにきたら危ないよぉ〜」


そう、壇上に登ってきたのは女の子であった。しかもカピパラの着ぐるみを着た。


「ここはね、子供のくるところではないんですよぉ〜」


その場に似つかわしくない格好におかしな奴が乱入してきたと勘違いした司会者は、その女の子を穏便に説得してご足労願おうとしていた。


「大丈夫です。勝つんで!!」


カピパラガールはあっさりと言った。その言葉を聞き逃さなかったミーゴと呼ばれていた男。


「ハハハハハ!!!お嬢ちゃん面白いこと言うねぇ〜。でもね、あんまり大人を馬鹿にしたら痛い目・・・・・」


突然、ミーゴと呼ばれていた男はその場に膝から崩れ落ちたのだった。


「はい、終わり」


気がつくとカピパラの着ぐるみを着た女の子はミーゴの背後に立っていた。


「ごめんね、私への中傷が長引きそうだったからゴングが鳴る前に倒しちゃった。この試合、あなたの勝ちでいいわよ。でも、100万マーメは全部治療費に消えてしまうかもね。一応、治療して治るくらいには手加減したから安心して」


シ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン。


あまりに突然すぎて会場は静まり返った。


「・・・えぇ、ただいまの試合、カピパラガールの反則により勝者ミーゴ選手!!!!!!」


シ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン。


壇上の優勝者は笑顔ひとつ作ることができずにもがき続けていた。その異様なほどの表彰に会場は賑わうそぶりを見せることはなかった。壇上を降り控え室へと向かうカピパラガール。


「あれは暗殺術の応用か?」


突然の問いかけに驚き、声の方へ振り向いたカピパラガール。


「よっ!!!」


その声の主はモカだった。モカたちはカピパラガールのことが気になり舞台裏まで来たのであった。


「あなた一体何者?私の技を一瞬で見抜くなんて・・・」


「俺か?俺は大魔法使いモカ!!!」


「大魔法使い???大紙袋ではなくて???」


「逆に大紙袋って何???」


「まぁ、いいわ。で、何の用?」


「別に用はない。ステージを見ていて面白そうなヤツを見かけたんで声をかけただけだ。お前こそいきなり壇上に登って反則して、何がしたかったんだ?」


「ただの腕試しかな・・・」


カピパラガールは淡々と答えた。


「あなたたちこの街に来るのは初めて?」


「そうだが・・・」


バンプが答えた。


「世界にはギルドの情報を受けられる街がいくつかあるのだけれど。この街は、中でも暗殺を中心としたギルドを中心に扱っている街なの。暗殺って言っても様々なんだけど、基本的には他のギルドよりも危険度は高くなる。だからここで受けられるギルドは高額なものが多いの」


「じゃあ、お前はお金が欲しくて、高額な暗殺ギルドを探すためにこの街に来たってことか???」


「そういうこと!!」


「じゃあ、さっき反則なんてせずに、開始を待ってからすぐ倒せばよかったじゃねぇか?」


「私もそう思ったけれど、話最後まで聞くのが嫌だったし、それにその後9人の挑戦者を倒さなければいけないのよ!!!しかも勝てば勝っただけ周りは構えていくから挑戦者は減る。次の試合まで時間がどんどん空いていくし、そんな待っていられないわよ!!!100万マーメなんてはした金のために。それに、ここのギルドの中にはその何倍ももらえるギルドだってあるんだから」


「なんでお前そんなにお金が必要なんだよ??」


「それは・・・」


女は言葉に詰まった。その様子を見たバンプは"悪いこと聞いちゃったなぁ〜"という後悔の念にかられた。


「それは、大好きな着ぐるみを買うためなの!!」


「んっ?」


バンプの後悔の念は吹き飛んだ。


「わからないかもしれないけれど、着ぐるみって凄くお金がかかるの。やっぱり買うからにはディテールにもこだわりたいじゃない?そうなってくると高級ブランドとかになってくるわけ!!!もうね、高いったらありゃしないの。お金がいくらあっても足りないわけ!!!うち暗殺稼業を営んでいるんだけど、お小遣いをいつも着ぐるみに使っていたら、そんな奴はいら〜ん!!!反省するまで帰ってくるなぁ〜!!!って、家を追い出されちゃってさ。初めはちょっと落ち込んだんだけど、よくよく考えたら、これで好きなだけ着ぐるみ買えるじゃん!!!もう、親の目を気にする必要ないじゃん!!ヨッシャーーーってなって、早速お金を稼ごうと思って色んな街へ行ってギルドをこなしていたの。そうしたら、この街のことを知ったってわけ。暗殺中心のギルドを扱っていて、しかも他とは比べ物にならないくらい高額。行くしかないじゃんって感じよね。それでこの街に来たの。そうしたら、たまたま面白そうなイベントをやっていたから、こういうギルドの街にいる猛者ってどの程度のレベルなのかを知りたくて参加してみたわけ。でも、全然ダメね。弱すぎ!!!いくつかこの街のギルドをこなしたら他を当たろうかなって思ったわ。ある程度お金も貯まったし、そろそろ新しい着ぐるみも欲しくなったころだしね。そう言えば、このカピパラの着ぐるみどう?良いと思わない?特にこの目の当たり!!!ジト〜っとしてるでしょ?カピパラっていう可愛いらしい動物にあえてこのジト目!!!クゥ〜★やっぱりホット・スプリングさんのデザインはたまらんわぁ〜。さすが着ぐるみブランド不動のナンバーワンよねぁ〜。惚れ惚れしちゃう。もう直ぐ新作がたくさん出るみたいだから、それに合わせてギルドをこなしていこうと思っているの。あっ、自己紹介がまだだったわね。私の名前はイアリよろしくね」


『暗殺者って寡黙だと思っていました』


モカ、バンプ、ロボ人3人の気持ちがシンクロした。


「大変だ大変だ大変だぁーーーーーーーー!!!!!!!!」


舞台裏に慌てて入ってきたのは先ほどのイベントの司会者だった。


「何が大変なんだ?」


バンプが聞いた。


「さっき新しいギルドが発表されたんです。そのギルドの暗殺ターゲットが、何とあのデスク軍幹部のチッキだったんですぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!」

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