経営者の悲劇part3
「でも、殺人犯だったらこんな莫大な財産を築く事なんて出来ないと思うのですが。こんな冗談は笑えないですよ。」
田辺は冗談であって欲しいという願望も込めて反論した。
「それはですね、私が人を殺した時の年齢が少年法の適用範囲だったので、社会的に実名報道がされる事は一切無かったんです。それに、私が起こした事件は社会的にも大事件として報じられたもので、2年前に少年院を退院した後に出した書籍が100万部以上も売れたので、印税を手に入れられたんですよ。自分勝手に人を殺して、十数年くらい少年院で良い子を演じて、本を出して大金持ちになる。小さい頃から自分の願望を押し殺して勉強してきた優等生たちが一生掛かっても稼げないようなお金を1年も経たずに手に入る。この国は、本当に犯罪者が住みやすい国ですよ。」
榊は笑いながら、背筋が凍るような話をし続けた。
「そして、殺人を犯して手に入れた金で、一生懸命頑張って築き上げた大切なものを金の力であっさりと手に入れる。この快感は何度、経験しても辞められないんです。」
田辺も若い頃は社会に迷惑を掛けてきた自覚があった。その時、自分を見捨てずに支え続けてくれた警察官や教師、家族など小さな社会の存在が嬉しかった。だから、心を入れ替えて社会に少しでも貢献できる人間になろうと努力し続けて、血反吐を吐きながら今の会社を立ち上げて、多少なりとも社員を雇えるような会社へと成長させてきた。
そんな苦労を嘲笑い《あざわらい》、札束で頬を叩くような形で自分の大切な物を、反省もしていない犯罪者に一瞬にして奪われそうになる。田辺は自分が更生したから、犯罪者は基本、更生すると信じていた。しかし、その考えが榊を目の前にして始めて幻想だと気付いた。
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