怨上(えんじょう)

乃木希生

種火

「ですから、犯罪者とはいえ人権はあってですね。犯罪者とはいえ、国が人を殺していいはずもないから『死刑制度』自体も廃止すべきだと私は考えているわけです。犯罪者は再犯するという前提ではなく、塀の中で改心するという認識で対応することが大事だと思います。少年法に関しても同様です。精神的にまだ未成熟な子供が起こした犯罪に関しては、更生を前提にしている今の法律は問題ないと考えています。


『犯罪者に人権はない』

『犯罪者に優しい国』


など言う人たちもいますが、絶対に間違っています。被害者や遺族の気持ちを考えると確かに憎しみや悲しみは計り知れないものがありますが、負の連鎖を断ち切ることが大事だと私は思っています。」


人権派団体での会合で一通り語っていたのは、温田みちお《おんだみちお》。国会議員だ。

この団体は、弁護士・医師・議員・経営者など上流階級と言われる層にいる人たちが起こした団体だ。彼らにとってイメージは大事であり、人の命を軽んじるなんて事はタブーだった。


本心では、犯罪者の人権などは全く気にしていないが、様々な思惑を抱いて各自が参加していた。いつかの会合で酔った勢いで彼らが話していたのは内容が週刊誌に流れたことがあったが、彼らの権力を持ってすればもみ消しも容易かった。


その時の記事には、

『犯罪者が社会に復帰したとしても自分たち上流階級とは接点が全くないから私たちには全くの害がない。下流階級の庶民たちは仮に犯罪に巻き込まれたとしても替えがきく存在だから問題ない。社会を良くするために犠牲はつきものだ。これからも『人の命は何よりも大事だ』といった人権派の人間たちを上手く活用しながら、私たちの地位をより盤石のものにしよう』

といった内容が書かれていた。



そんなある日、この団体の主要メンバーたちの家に1通の差出人不明の手紙が届いた。


手紙には、

『あなたたち人権派の皆さんは、犯罪者を擁護し更生を促す必要性を主張しておられます。それが本心かどうかを試させて頂きたいと思っております。これから1ヶ月の間、あなたたちの周りに少年法で守られた殺人者、懲役を終えた犯罪者の人たちが何かしらの形で接点を持つように仕組んでいきます。


あなたたちは犯罪者は改心し、更生すると言い張っているので何も心配はありませんよね。

ぜひ人権派の皆さまが身を以て、犯罪者と共存する生き方の模範を示してください。あなたたちのこれからの行動が『死刑制度撤廃』の実現可否を左右すると思っていてください。』

とだけ書かれていた。


人権派団体の主要メンバーはこれから1ヶ月、自分とは無縁だと確信していた恐怖と隣り合わせの日々を送ることとなった。

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