高橋映画

家の隣の空き地がなにやら騒がしいなと思っていたら、みるみるうちに家が建って、一週間前におかしな家族が引っ越してきた。外出制限の続く中で、隣の家族の異常さは退屈を紛らわせた。

朝8時きっかりに隣の家の活動が始まる。母親は家中の窓を順番に開け閉めし、父親は庭の椅子に腰かけて、逆さまに持った新聞を読む。新聞を読み終えると庭の中心に立ち、大声で歌を歌いだすが、どこの国の歌なのかはだれもわからない。昼になると隣にも聞こえてくるほどの音量でテレビをかけるが、夜になるとびっくりするほど静かになり、部屋の電気が消えるのも早い。

夜が更けると昼間静かにしていた息子が二階の窓から顔を出す。星を眺めているようなのだが、雨の日も、曇りで星が見えない日も必ず何かを見ているので、実際のところはよくわからない。ただ、三人の中では彼が一番まともに見えた。


とても暑い日の夜、部屋の窓を開けたら、向いの窓から星を見上げる彼と目が合った。彼は口をパクパクさせてこちらに何か言っている。「星を見に行こう」 そう言っているんだと思った。

10分後家の前で待ち合わせ、自転車で堤防へ向かった。隣の家族は普通じゃないという偏見から、ひょっとしたら彼は自転車に乗れないのではと疑っていたのだが、いらぬ心配だった。汗一つかかずに坂道を登り切り、気持ちよさそうに下りながら、自転車のライトに吸い寄せられる小さな蛾を足で追い払おうとしていた。


僕たちは堤防に腰かけて、黙って星を見上げていた。海から眺める夜空は、星がこぼれ落ちそうだった。ここに住んでしばらく経つが、だれかと星を見るのは初めてだった。今年は500年に一度といわれるほど大きく星が動く年だと、テレビでだれかが言っていた。大きく変化する状況の中で、自分の存在は日々小さなものに思えた。真っ暗な空間の先に地平線を探していると、いつの間にか彼は星をみるのをやめてこちらを見ていた。

「見ていて」

そういうと彼は両手を重ね、指をありえない方向に曲げて絡ませ、六芒星のような形を作ってそれを空に掲げた。すると彼の額にある三つ目の瞳が開いて、光を放った。光は六芒星を突き抜けて、夜空へと伸びていく。

80秒。ただ黙ってその様子を見ていた。

やがて光が途切れて、彼は両手をそっとおろし、こちらを向いてこういった。


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