暑苦しくても良いじゃない。
ろくろだ まさはる
暑苦しくても良いじゃない。
駅前広場の恋人の銅像前は人の行き来も多く、今日も賑わっていた。
銅像の前には相手を待つ男女が何人も立っている。
その中に白のワンピースを着た
長身でプロポーションも良く目立つ為、通り過ぎる男性の視線が集まるが、
本人はその事に気付いてはいない。
時間を気にし、何度も腕時計を確認する真琴。
駅舎の時計は3時15分を指している。
「よぉ、真琴。お待たせ」
呼びかけられた真琴は笑顔で振り向く、が。
その視線の先には、学校指定のジャージ上下、裾と袖は捲り上げられ、足にはビーチサンダル、寝癖頭ねぐせあたまを掻きながら欠伸している、
「ふうぁぁぁぁぁ・・悪い悪い」
その姿を見た真琴の顔が一気に引き攣った。
「ん?どした?何か用あんだろ?」
引きつった顔をどうにか笑顔に戻し。
「あのね、祐・・・・」
「って言うか、わざわざこんな所に呼び出さなくても、部活ん時で良いじゃんかよ。折角の休みだってのぉひぃ」
祐介、欠伸をかみ殺しながら腹をボリボリ掻いている。
その姿に更に顔が引きつる真琴。下を向いて、身体を震わせ始める。
「しかも、待ち合わせ場所が恋人像ってなんだよ、めっちゃハズいじゃねぇか」
ゲラゲラ笑いながら真琴を見た祐介、一瞬にして自分の失態に気づき。
「いや、まぁなんだ。たまにはこういう場所で待ち合わせってのも雰囲気があって良いよな。オシャレで、な?」
真琴の肩がピクリと動く。
「それにアレなんだろ?ココで待ち合わせて一緒に遠出町の恋人像の前まで行くと、両思いになれるんだろ? ロマンチックだよな」
真琴、ガバッと顔を上げて
「そう!!コッチの像が男性、遠出町の像は女性メインなの!その間を思いを抱えた男女が赤い糸になって繋ぐと両思いになれるのよっ!」
勢いにたじろぐ祐介。
「バレー部の麻里香先輩も、バスケ部の志保も、柔道部の佐山さんだって!二人で繋いで両思いになれたのよ!!」
「柔道部の佐山は、ありゃ腕力で強引に」
キッ!と睨まれる祐介、気をつけの姿勢。
「・・・・・ん?待てよ」
なにかに気付いた祐介がニヤぁと笑い。
「と言う事は、真琴さん。その赤い糸になって像の間を繋ぎたい、と。そう仰るんですか?」
人の悪い笑顔。
「おやおや、なるほど。これはどうも、気付かなくてスイマセンでしたねぇ」
「だって・・・・」
手を真琴の耳の横に持っていき
「だって?」
「付き合うって言ってから、部活!部活!でこういうイベントなんもしてないじゃん!」
一歩詰め寄る真琴と、一歩後ずさりする祐介。
「それに夏休み入ってからも、何?なんも誘ってこないのって何?お祭り、プール、海水浴、2020年の夏って一度しか無いんだよ?! 」
「うっ・・・それは。」
真琴、さらに詰め寄り。
「いつ誘われても良いように、夏休み前に水着を新調した気持ち、アンタに分かるの!?」
「ん?水着?新調したのかっ!?」
「はい!ソコ!想像すんな!」
ビシッ!と指を差して牽制する真琴。
ゆっくりと俯いて、ため息一つ。
「もう少しさぁ」
「ん?」
「もう少し。彼女だと思ってくれてるんなら・・・・・私の事も考えてよ。」
いつもと違う、しおらしい真琴の様子を見て反省する祐介。
頭を振って、ポリポリ掻きながら。
「・・悪かったよ。でも俺ら3年は秋の大会で終わりだ、それまでは部活優先にさ せてくれって、付き合う時言っただろ?」
一歩近づき真琴の顔を覗き込む祐介。
「それに俺は。学校に行けば毎日真琴の顔を見れるから、その、それで十分だったワケで」
祐介、真琴の頭を優しく抱きしめ。
「だから、別に真琴の事を蔑ないがしろにしてたとか、そんなんじゃ無いんだ」
「ホントに?」
「ホントだよ。こんな事で嘘ついてどうするんだよ」
「・・・・うん」
祐介、抱いていた手を真琴の肩に置き顔が見えるように軽く押す。
真琴、嬉し泣きの笑顔。
「分かってくれたか?」
「うん」
「じゃあ、もう泣き止んでくれよ。ギャラリーの目もあるし」
それを聞き周りをキョロキョロ見回した真琴の視線が、遠目から見守っていたギャラリーと合った、その瞬間ギャラリーから拍手が沸いた。
「きゃっ!」
驚いて祐介を突き飛ばす真琴。
よろめいた後、祐介はギャラリーに手を振って、軽く会釈を返す。
ふと、真琴を見ると、今度は恥ずかしさから顔真っ赤にして俯いている。
「大丈夫か?」
真琴に近づきながら
「まぁ、ほら。こんな事にはなったけど、一応お互いの気持ちは再確認できたワケで、何というか、ケガの功名って言うか・・」
近づいてきた祐介の胸に、俯いたまま真琴が紙袋を押しつけた。
「ん?これは?」
祐介、下を向いて紙袋を受け取る。
真琴、その隙に後ろを向く。
「おい真琴、コレ」
「イベント目白押しって言ったでしょ。誕生日おめでとう、祐介」
照れくさそうに、今度は祐介が俯いていた。
「あ・・・そうか、だから今日」
「うん」
「・・・ありがとう。中見て良いか?」
「・・・・・うん」
嬉しそうに袋を開け中を確かめていた祐介の手が、はたと止まった。
「真琴」
「うん?」
「今、何月だ?」
「8月」
「今の季節は?」
「夏」
「そうだよな。俺の記憶に間違いはないよな」
何度も首を傾げていた祐介が、袋から毛糸の帽子を引っ張り出して真琴に突き出した。
「だったら何だよコレ?毛糸の帽子?夏だぞ夏!サマーだ!季節の先取し過ぎだろうが!」
真琴、振り向いて
「んなっ!何よ、急に大声出して」
「おまえなぁ、良く考えろ?8月の炎天下をこの帽子被ってりゃどうなるか、小学生でも分かんだろ!?」
帽子を鼻先に押しつけられた真琴が、その手を振り払い。
「なによ!そんな事言ったって仕方ないでしょ!間に合わなかったんだから!!」
「間に合わなかったって・・・まさか、コレ?去年のクリスマスのあれか?だから真っ赤なのかっ!?」
「そうよ!編んでたけど間に合わなかったのよ!」
「に、してもおまえ。真っ赤でボンボンまで付いてて、俺はサンタか!」
「良いじゃないの!クリスマスらしくて!」
真琴、祐介の顔を指さして詰め寄り。
「それに、手編みの帽子が欲しいなって言ってたのは祐介でしょ?!手に入ったんだから夏でも被りなさいよ!サマーニットよ!」
指された指を払いのけ、詰め寄る祐介。
「俺の知ってるサマーニットは、もっと薄手で柔らかい素材でできてんだよ!なん だコレ?ゴワゴワの毛糸で親の敵みたいにギッチギチに目を詰めやがって!どうやったらこんなに固く編めるんだよ!?軍手か!?」
祐介、真琴の顔に帽子を突き出す。
「見ろ!この編み目!7人掛けの椅子に9人座ってるみたいにミチミチだろうが!しかもココ!油染みみたいなの付いてんじゃねえか!おまえポテチか何か喰いながら編んでただろ!」
「うっ・・・・!!!」
図星を指され、真琴はたじろいだ。
「ホラ見ろ!やっぱりそうか!」
勝ち誇ったように笑う祐介。
「信じられないね!彼氏にプレゼントする帽子にポテチの染み付ける彼女がどこにいるんだよ!?あ、居ましたね、ココに居ましたね!」
俯いたまま肩を振るわせている真琴を見て、ココぞとばかりに捲し立てる祐介だったが、顔を上げ、手を振りかぶった真琴を見て、自分の運命を悟った。
「うるっっっっっせぇぇぇっ!!!」
頬にヒットした右手で
暑苦しくても良いじゃない。 ろくろだ まさはる @rokuroda
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