第33話 作戦会議と冒険者
表向き、【命令】持ちであったことが原因で依頼の話はなくなったことにする。相手と揉めて叩き出されたということにしろ。
そう言われ応接室を追い出された。
「あの
―――……ま、まあ事態の解決の糸口ではあるんだろ? 喜んどけば良いじゃねえか。
「だから性格悪いっつったんだよ」
あれは間違い無く断れないと踏んで話を持ってきてた。助け舟ではあるのだが嵌められたようでどうにも気分が悪い。
「――ああ、旅人の
「あ、はい」
そんな悶々とした気分で廊下を歩いていると、
そちらへ行ってみれば、この時間帯にも関わらず多くの冒険者が集まっている。
「……よし、とりあえず今いるのはこのくらいか」
「おい! この【命令】持ちまで呼ぶ必要はないだろ、レイモンさん!」
「そりゃコイツを倒せる実力になってから言うんだな」
声の主はレイモン、
……
「……えーっと、これは?」
「おっと、まだ聞いてなかったか?
「今回は過剰に肥大化した
「なるほど」
つまりユーゴーさんが来ているのは衛兵隊の代表としてか。
見てみれば、部屋の中央に寄せられた机の上には街の東側の門周辺の地図と、その上には色のついた石が置かれていた。
「……とは言っても先に集まってた奴らとある程度の話はしてたんだがな。
赤い石が
「進行経路がこの通りになる確証は?」
「ほぼ確実だ、以前から偵察が来ている。それに今回は腹を空かせた集団だから、ある程度匂いなんかで誘導できるはずだ」
それから作戦会議は進み、大まかな方針が決まった。とは言っても冒険者という職業の性質上、かなり流動性をもたせたものだったが。
「――よし、こんなもんだろ。改めて言うがこの罠を張るエリアには近づくなよ!」
「基本的に罠を張るのは土魔法使いに任せることになる。ただ、くれぐれも大々的にやって罠に勘付かれることのないようにしてくれ、優先すべきは戦いやすい場所へ誘導することだ」
中心にいた二人の言葉に、冒険者達は「おう」とか「任せろ」とか好き勝手な返事をしながら各々解散していく。それに続いて
「……っとと、ちょっといいか?」
レイモンさんに呼び止められた。
「何でしょうか?」
「礼を言いたくてな。……ジョエルのことだ、アイツの鼻っ柱を折ってくれてありがとう、俺にはどうしようもなかったんだ」
「…………お礼参りとか、そういう話ですか?」
少し不安になりながら聞き返すと苦笑された。
「違う違う、成功ばかりが続いて調子に乗り過ぎていた所だったんだよ、アイツは。
あのままだと酷い失敗をするところだったから、どうにか矯正してやらないといけなかったんだ。アイツに冒険者のイロハを教えたのは俺だったからな」
ま、小言だと思われてたみたいだけどな。と自嘲気味に笑う彼の顔は、生徒を案ずる先生というよりも我が子を見守る父親のようだった。
「それはそれとして、だ」
その表情が改まる、今度は何の話だろうか。
「どうだったんだ、依頼は」
「……依頼?」
「指名依頼だよ指名依頼! あんだけ受付が慌ててたってことはどっかのデカい商人とかの大口だろ? 出世のチャンスじゃねぇか!」
「ああ、そういうことですか」
冒険者
上から金、銀、銅級とランクがあり、更にその中で上位、下位と分かれている。依頼書には受けていい最低ランクが記載される仕組みである。
彼の言う『出世』とはこれのランクアップのことだ。
ちなみに俺は銀級下位で、レイモンさんは銀級上位だったはず。
「断られましたよ、【命令】持ちなのが気に入らなかったようです」
「……そうか、そりゃ残念だな」
「……そうですね」
正直な話、
そもそもの目的が路銀稼ぎであって、冒険者として名を上げたりとか、一攫千金がどうとかは別にどうでもいい。……ああいや、一攫千金はちょっといいな、お金は欲しい。
更にいうと、指名依頼をするという者は大抵財力か権力か、とにかく力を持っている。
間違いなく冒険者なんて選り取り見取りなのにわざわざ【命令】持ちを選ぶなんて、まず間違いなくまともな内容じゃない。それが依頼内容なのか、報酬の金額なのか、はたまたその支払い方法なのかはともかくとしてだ。
つまり何が言いたいのかといえば、【命令】持ちにとって指名依頼というものは導火線の見えない爆弾のようなものだということ。
今回の依頼だって報酬代わりに『一連の騒動は【命令】持ちが裏で悪さをしていたんだ!』……なんて情報がばら撒かれてても驚きはしない。
……まあ、そんな話をするつもりは無いけども。
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