第26話 不穏な気配、そして舌戦
「―――はい、依頼内容通りですね。お疲れ様でした」
その日の『授業』を終え、二人と一緒に
…………と、そうだ、
「……もしかしたら報告に上がっているかもしれませんが、東の森の動物が異常なほど少ないように感じます。一応警戒しておいたほうが良いかと」
「動物が少ない、ですか……。あっ、確かに報告がありますね。恐らく探索依頼が近いうちに出されると思います」
「そうでしたか、なら良かった」
……流石に今回はパスか、割と実入りのいい仕事なんだけどな……。
そんなことを考えながら踵を返し、カウンターから離れようとしたところで、こちらへズカズカと近づいてくる者がいる事に気づく。
受付へ急ぎの用事……では無さそうだな、俺のことを睨んでいる。
案の定、その男は俺の目の前で立ち止まった。恐らくは冒険者、高価ではなさそうだが良質な装備を身に着けている。歳は俺と同じか少し上だろう。
「……何か御用でしょうか」
「『何か御用』だと? 白々しい!」
……嫌な予感しかしないな。黙っておこう。
「お前だろう、最近やって来て孤児たちを危険な目にあわせているというのは!」
「なっ…………!」
しまった、二人に絡まれた時の対処法を教えておけば良かった。
「何を言ってるんですか!? 逆です!!」
「そうやって庇うように【命令】されているんだろう!」
「―――っ!」
まずはミリアが言い負かされた。
「……それだけ言うってことは何か証拠があるんですか?」
「そういう通報が俺のところに来たんだ!」
「そういうのは衛兵の仕事ですよね? もしくはもっとベテランの冒険者に頼むべきでは?」
「そ、それは…………」
対するクルトは結構善戦しているが……。
……通報? 妙な思い込みやこじつけでなく?
…………ああクソっ、油断していた!
慌てて周囲の気配を探る。……敵意は3……いや4か、よく考えたら時間の割に人が多すぎることにも気付くべきだった。幸い扇動されているような奴はそう多くない、か?
―――ヴァルナ。
―――どうする?
―――できる限り有利な状況を作りたい。余計な口出しを妨害できるか?
―――お安い御用、ってやつだな。
おそらくこれは俺を孤児院から引きはがすための作戦だ。俺が来てから虫の息だった孤児院の財政が息を吹き返したし、その因果関係は隠しようがない。
直接いちゃもんをつけてきた彼はけしかけられただけだろう、そういえば正義感の強い期待のルーキーの話は聞いた事がある。名前は……ジョエルだったか。
だとすれば、相手の目的は逆らえない状況でも作って要求を呑ませる、といったところか。いや、決闘に持ち込んで『うっかり』俺を殺す可能性もあるな。
…………いっそ決闘にしてしまった方が楽か? そうすれば牽制もできるし。
クルトが頑張ってくれたおかげで考えはまとまった。あとは上手く話を持っていけるかだな。
「―――な、なら疚しい事が無いのにどうしてそいつは黙っているんだ!」
……いいタイミングだ、とりあえず出鼻を挫くか。
背後のカウンターから筆記具を借りる。自前でも持っているがこちらの方が手っ取り早い。
『で、口を開いたら【命令】を使おうとしたな! ですね?』
「……そ、そんなわけないだろう!」
……ちょっと文章見せた程度で動揺するなよ。させようとしたのは俺だけどさ……。
「そうですか? あなたのご友人は何かしようとしていたらしいですが」
「……………ぐ、うぅ……」
さて、どう出るかな。俺を逃さない状況を作るためにわざわざ集めた
潔く引き下がるならそれで良し、そうでないなら叩き潰す。
「……埒が明かない! 僕と決闘しろ!!」
おお、ド直球に来たな。
「口では勝てないから暴力に訴えますか」
「う、うるさい! 元はと言えばお前達が論点ずらしてばかりで―――」
「構いませんよ?」
「…………は?」
「あ、一対一ですよね? 流石にチーム戦と言われるとこっちにはヴァルナしかいないので困るのですが」
そんなに驚くことかね、大人しくそっちの要求に従っただけだろうに。
「あ、当たり前、だろ」
「それは良かった。あなたみたいな手合いによくいるんですよね、負けそうになったらバレないように横槍を入れて、それに抗議したら『負け惜しみだー』ってのが」
ついに何も言い返せなくなったらしく、握りしめた拳をプルプルと震わせ、歯軋りをしている。……流石に煽り過ぎたか。
「……はあ、やるんならさっさとやりましょう。すみません、訓練場を今から貸し切れますか?」
「ええ、構いませんよ」
受付の方を振り返って確認を取る。……決闘することに対するお咎めは無しか。
「ですが、
……前言撤回。ここの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます