第8話 孤児院と領主①
「…………」
朝日の光を感じ、目が覚める。窓の外を見る限り、いつもの時間に起きられたようだ。
背中の痛みは無い。
「昨日とはえらい違いだな……」
確か、昨日はとりあえず話を保留にさせてもらって、夕食を頂いたんだったな。
まさか空いているベッドを貸してもらえるとは思わなかった。おかげで、その昨日みたいに背中を痛くせずに済んだ。
そんな益体もないことを考えながら洗面用具をカバンから取り出していると、ヴァルナが話しかけてきた。
―――ん、起きたか。
「おはよう、昨日はあまり話せなくて悪かったな」
―――あー、そのことなんだが。
「ん?」
―――念話ってパスをつないでる間は相手からも返せるはずなんだよ。
「……マジで?」
―――おう
「なんで教えてくれなかったんだよ」
―――いやてっきり知ってるもんだと思って
俺が念話に対してあまり驚かなかったから勘違いされたらしい。
―――説明しにくいんだが、頭の中で声が聞こえてきたほうへ声を返す感じで
―――……こんな感じか?
―――そうそう
慣れが必要だなこれ。でも割と大きな収穫だ、蛇に話しかける狂人だとか思われたくない。
話している間に準備が終わり、洗面所へ向かう。
なんとこの洗面所、小さいながらも鏡がある。小さいといっても顔を見るのには十分な大きさで、それなら今のうちに伸びてしまったひげを剃ってしまおうと思ったわけだ。
―――お前ってあまり見ない容姿してるよな。
―――故郷ではこれが普通だったけどな。
確かに、黒髪に濃褐色の目という組み合わせはこちらのほうではほとんど見ない。そう考えると、遠くまで来たのだと実感する。
……まあ、そんなことより、
―――なんでお前呼ばわりなんだよ。
―――ならマスターって呼ぶか?
―――……いや、遠慮しとく。
一瞬で論破されてしまった、ちくしょう。
―*―*―*―
「ああ、ここにいた。レオンさん、朝食の用意ができたんですけど、食べますよね?」
顔を洗ってさっぱりしたところで、クルトがやってきた。わざわざ呼びに来てくれたらしい。
「頂けるのでしたら,是非。でも、大丈夫ですか?大人一人分の量って結構ありますよ?」
「急に人数が増えるのは慣れてますし、そのくらいなら大丈夫です」
そういうことならありがたく頂こう。
―*―*―*―
「「「ごちそうさまでした」」」
うん、うまかった。
朝食の内容自体はパンとベーコンエッグという質素なものだったが、ベーコンは脂がのってジューシーだったし、何よりも朝早く買ってきたというパンがとてもおいしかった。焼きたてだからこその香ばしい香り、そして一切れ噛み締めた瞬間に口の中に広がった小麦の味と言ったらもう―――、……だめだ思い出しただけで口の中によだれが出てきた。……あとで店の場所を聞こう。
…………さて、と
執務室へ向かい、ドアをノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
ドアを開け、中に入る。
「昨日の話について伺いに来ました」
「はい」
「この孤児院に何が起こっているのか、教えていただけますか?」
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