第一章 ルーニック孤児院

第1話 目覚めと味気ない朝食、そして蛇

「―――……っ」


 朝日の眩しさと背中の痛みで目が覚めた。

 少し寝坊してしまったのだろう、思ったよりも日が昇っていた。


「……少し急ぐか」


 別に予定があるわけではないし、明確な目的のある旅でもないけれども、生活リズムを崩すような真似はしたくない。

 とにかく、寝ぼけてふわふわしている頭を起こすためにも、さっさと朝食の準備をしようか。


  ―*―*―*―


「我ながらよくやったな……」


 昨日は精神的にかなりまいっていたはずだというのに、周りには最低限の獣除けがされているし、水筒の水も補充されている。むしろそこまでできたのなら、寝床を整えるところまで頑張ってほしかった。

 とはいえ、街道から離れた森の中に作った野営地としては最低限機能しているし、水抜きで歩く羽目になるよりはよっぽど良い。そう考えてカバンから干し肉と硬いパンを取り出した。


「うん、不味い」


 焚火の用意もないのでそのまま口にしたけど、やっぱり食べられたものじゃないな。


 そんなことを考えていると、不意にがさりという音が聞こえた。

 即座に剣を取り音の聞こえたほうを警戒する。


 現れたのは一匹の蛇だった。

 その蛇は、俺を見て一瞬うろたえたようだったが、次の瞬間にはこちらへ飛びかかってきた。

 それを慌てることなく叩き落とし、頭を押さえて捕まえる。


「……うーん」


 と、そこまではよかったのだが、


「ガリガリに痩せてるな……」


 朝食の足しにしようにも、これでは食いでが無さすぎる。かといってそのまま逃がすのも、なんとなく後味が悪い。


 ……仕方ないよな。


「俺に”襲い掛かるな”よ」


 そう【命令】してから、カバンを開き、干し肉を取り出して蛇のほうへ放り投げる。

 

「ほら、いいから食えって。毒も何も入ってないから」


 警戒しているのか食べようとしない蛇にそう言ってやると、ようやく食べ始めた。


 そして、


―――何のつもりだ?


 唐突に脳裏に声が聞こえた。


「……もしかして念話か?」


―――そうだ、で、何のつもりなんだ?


「そのまま逃がすのが後味悪かったからな」


―――……それだけか?


「ああ。……あと2,3枚くらいなら食っていいけどいるか?」


―――…………くれ。


「はいよ。」


 カバンから取り出し放ってやる。するとすぐに食べ始めた。

 そして、俺は食べ終わるのを待ちながら出発の準備をすることにした。といっても片づけをするくらいしかやることがなく、すぐに終わったが。

 見てみれば蛇はすでに肉を食べ終えていた。どうやら律義に待っていたらしい。


「じゃあ、あとは勝手にしてくれ。ああ、あと、念話はおいそれと使わないほうがいいぞ。その手の物好きとかに売れるからって冒険者が大挙してやって来るから」


 そう言ってその場を立ち去ろうとすると、


―――ついて行ってもいいか?


 と、聞いてきた。


 ……ふむ、と、少し考える。

 まあ、今までずっと一人旅だったわけだし、旅の道ずれができるのも悪くないよな。


「ああ、いいぜ。これからよろしくな」


―――ああ、よろしく。


 そうやって、挨拶を終え、歩き出したところへ、


 遠くから、剣戟の音と悲鳴が聞こえた。

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