第4話 レッスン!?

「まだ、理想からは遠いんだけど、あと半分。頑張ろうと思っているのよ」


 あ、やっぱり学園全部乗っ取るつもりなんだ。でも、それも難しいだろうと思う。生徒会だって黙っちゃいないし、副会長の穴だってすぐに埋まった。

 前途多難の先にも困難しか待ち受けていないだろうに、彼女も大変な事を仕出かしてしまったな。


「それでね最近、そっちが忙しくて来れなかったんだけど、寂しかった?」

「そんなことないよ」

「え、即答? やっぱり無理にでも会いに行くべきだったわね......」


 なんなら時折、学園内でも見かけていたし。


「それにしても、さっきの男、しつこかったわね。私もすぐに気付けなかったんだけど、朔子さん、何も言われなかった? あいつ、女の事、人としてなんて見てない最低野郎なのよ」


 鳴尾は今までの女の子との付き合い方に問題があった。細かく思い出す暇は無いが、最低野郎と言われるのは仕方が無い。


「大丈夫だったよ。困っていたら直ぐに澪さんが来てくれたし」

「なら良かった。朔子さんにちょっかいでも出したらあんな毒男切り裂いてやるわ」


 東條はキッと目付きを鋭くして怒りを露わにする。そこまで怒らなくても......と思うものの、東條の男嫌いは相当のものだ。


 バイト先へ戻り、そのまま東條のオーダーを聞く。いつものアイスコーヒーだ。

 オーナーがこだわってブレンドしているコーヒーを目当てに来る客は意外と多く、東條もまたそのファンなのだろう。単価もあまり安くないので、ガヤガヤとした人も少ない。お客様は味に集中し、静かな時を過ごして行く。


 そして、お使いを済ませた僕は他に客が居ないので、食器を手入れを済ませる。


 オーナーが淹れたアイスコーヒーを受け取り、配膳する。スマートフォンを見ている東條は、僕が近付いただけですぐに気付いた。そして、何か言いたげな顔をしてこちらを見る。


「どうかされましたか?」

「あのね、聞きたいことがあったのよ。朔子さんって、謎に包まれているじゃない?」

「はい......? 私が? そうでも無いと思いますけどね」


 僕からすれば東條は東條で謎に包まれているとは思う。それに、僕は謎どころか秘密に包まれているんだ。だから謎めいてなんかない。ただの蓮田五十六だ。謎だからって暴かれようと、秘め事は暴かれるつもりは無い。そもそも、暴かれたら人生終了だ。変態だと罵られ晒される。学校中の笑い者として処刑されるだろう。


「何処の学校に通ってるとか、まだ聞いてないし......。そもそも、私の事もあまり知らないでしょう? 私、ずっと朔子さんのこと聞いてみたいと思っていたのに、ここへ来ては自分の話ばかり聞いてもらっちゃってたし............」

「あはは、確かに、お互いの事全然知らないですよね」

「でしょう? だから、今度は私が朔子さんの話を聞く番だと思ったの! さぁ、どんと来なさい!」

「と、突然だなぁ......」


 確かに、鳴尾の件もあったし僕が朔子だと印象付けるのは理にかなっている。そして、東條とそのまま話をした。

 僕はこの喫茶店のオーナーの親族であり、田舎から出て来て隣町の学校に通うためにここで働いている事。年齢は東條と同じく高校一年。


「そんな、普通の事ばかりじゃつまらない〜。もっと他にないの〜?」


 思ったよりフレンドリーな東條。何か、良いことでもあるのだろうか。まあいい機会だ、直近の悩みでもある声について誰かに聞いてみたいと思っていた。


「えー......。なら......その、私、自分の声があまり好きじゃないんですよね。女の子らしくない......気がして」

「そうかしら? 見た目と反して、少し低くて、ハスキーな声だとは思うけど私はそこ含め朔子さんが好きよ」

「そ、そうかな? でも、そのハスキーが......気になるというか......」

「あははは、ちっぽけな悩みね!」


 まあ、ちっぽけではあるさ。君の成し遂げようとしている事と比べたらね。声に関してはもう、救いようがないとは思っているものの、これから先が思いやられる......。ただ、この問題さえ解決すれば僕はより完璧な朔子へと近づくことが出来る。きっと、鳴尾程度なら簡単に騙せるだろう。


「そんなこと言って......。今だって少し無理してるし、立派な悩みだよ......」

「じゃあさぁ、どの位低く声出せるの!? 聞かせてみてよ」


 好奇心満々に東條が聞く。僕は面白いかな、と思ってついつい男の中でも特段に低い声を出す。


「えー......恥ずかしいなぁ。......ぼえぇ」


 キャッキャと笑う東條。目を擦ってまで喜んでいる。


「どこからその声が出てるの!? ほんど朔子さん面白いね!」


 東條ってこんな可愛い顔、出来たんだ。そう思うと、僕も思わず笑いが込み上げてきた。


「もう、だから嫌だって言ったのに......」

「嫌だって言いながらもサービスしてくれたじゃない 」


 東條は目を擦りながら言い、そして提案してきた。


「ならさ、私と練習してみようか?」

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