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「今日も練習がんばろーねー!」
通話相手の一人である
僕と玲音は素顔を晒して活動するゲーム実況主だが、陽愛ヒメはゲーム実況も行うVTuberで、週ニのポンポンフラッグ練習で行うテレビ通話でもアバターを使用していた。
「とりあえずフラッグ行っとこうぜ」
玲音の提案で今日はフラッグから練習をすることに。
フラッグはポンポンフラッグの中で最もスタンダードなルール。ざっくり言えばマップの各所に設置された十本のフラッグを取り合う陣取り合戦だ。各プレイヤーは好きな武器を持ち、戦地に赴く。
僕はチームの中では特攻を担当していて、相手チームのプレイヤーのHPを削り、"キル"することが仕事だ。キルされたプレイヤーは自陣のスタート地点まで戻されるからキルすればするほど、こっちは有利になる。
「さじ太! 後ろからきてるぞ!」
キルされると武器の種類に関わらず、パンッ!と風船が割れたときのような軽い破裂音がして画面が真っ暗になる。最近はこの瞬間を何度も体験していた。
「最近調子悪いね」
数試合終わった。全国大会優勝チームが国内のランダムマッチで負け続き。
沈黙が流れていたところにヒメがため息混じりにそう言った。
それから、Tシャツ姿の玲音がコントローラーから片手を離し、煙草を吹かし始める。
「調子悪いっていうか、やる気が無ぇんだろ」
玲音の、普段なら心地良いと感じる低めの声がよく研いだナイフになって僕の胸元を突き刺した。玲音は"誰"と指名はしなかったが、それを僕は自分に向けられていると感じた。
重い一撃を喰らった心臓は、苦しそうに鳴いた。外から聞こえるセミの鳴き声よりもその鳴き声は遥かに大きい。その後も玲音は何ごとか喋っているようだったけれど鳴き声で掻き消されて、よくきこえない。
「今日の練習は、もうやめよう」
僕には苛立つ玲音とそれをなだめようとしているヒメに、笑顔でそう告げるのが精一杯だった。なんで笑顔をつくる必要があるのか自分でもよくわからない。少しでもギスギスした空気で終わらせたくない気持ちが出たのかもしれない。握っていたコントローラーは手汗で濡れていた。また練習しようね、そんなヒメの声を合図に僕は通話を切った。
玲音のナイフが深く刺さるくらいに、僕には自覚があった。新型ウイルスの世界的な流行により
軽い感じで以前そのことを二人に話したとき、二人は秋には状況がよくなってるはずだって言ってたけど、僕はそんな楽観視できない。
だって状況は、五ヶ月経っても変わってないじゃないか。政府も、みんなも。コンビニに行こうとすれば子どもたちとその親が公園に集まっている。観光地には若者が大勢いるという報道だってある。
僕自身は動画さえあげてれば生活できるけど、楽しみにしてた大会はどうなる?
「そんな中でどうやってモチベーションを保つっていうんだよ!!」
仲間にはぶつけられなかった気持ちをコントローラーに向ける。力任せに投げたコントローラーは、カーテンで閉め切られたガラス窓に当たった。
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