第9話 広く深く


「俺ってそんな顔広いのかな」


ふと隣がつぶやいた。


「気にしないでいいよ。いくら顔が大きくとも世界にはお前を性格で見てくれる女性が居るはずさ」


流石は僕だ。紳士らしさとはこの些細で丁寧な心遣いから成り立つのである。


「いや、物理的の方じゃないって!それにそのフォローはちょっと傷付くぞ!」


「ごめんごめん」


「答真がさっき言ってただろ?」


「ああ、お前は誰とでも仲が良くて羨ましいよ」


「交友関係は広く深く。それが俺のモットーだからな!」


「なんかコツとかないのか?掛橋先生よ」


「よくぞ訊いてくれた!コツってもんじゃないけど、極端には気を付けてる。広く深くは大事だけど、広過ぎるのも深過ぎるのもだめだ!」


「だだっ広い豪邸に住んでも掃除が大変で、川も深くまで行き過ぎては溺れるかもしれないってことか」


「おー!そうそう!そういうこと!いやー答真は俺の考えをまとめるのが上手いよなあ!」


「ありがとさん」


「俺の考えを整理する仕事があったらすぐ働けるな」


「そんなマニアックな仕事僕はご免だ!」


「そうか?給料弾むぞ?」


「一応訊いておこう。いくらだ?」


「ほらよ」



そう言って隣が缶ジュースを投げてきた。人もおかしくなる程の暑さだというのにこの缶はそれを忘れているように冷たい。まるでサディスティックな女性に向けられる視線のようだ。ただ両者の差は飴か鞭かにある。否、どちらも飴であるため違いはない。

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