選り取り見取りされども愚鈍な日々よ
スイッチ
第零章
第1話 バイトのお誘い
拝啓大人の皆様、ただいま僕は高校ニ年の夏休みの真っ最中でございます。夏と言えば海。
「なぁ!なぁってば!」
おっと失礼、悪友が何か騒いでいます。
「え?」
「だから!この映画はどうだった?ってさっきから言ってるでしょうが」
「ごめん、考え事してた」
「で感想は?」
「そうだなぁ、僕は嫌いかな」
「ん?面白くなかったの?俺はめっちゃ感動したんだけどなぁ」
「違う違う面白かったんだ」
「じゃあなんで嫌いなんだよ」
「面白かったからこそなんだよ。名作ってのは余韻が凄いだろ?あの後味ってのは喪失感があって寂しくさせられる。それが辛いんだ。だから僕は名作が嫌いだよ」
「なーにカッコつけてんだよ!でも主人公が最後に人生はどうなるか分からないから面白いって気付いたのが良かったよな」
「うん」
「じゃあ、威厳ある
「送ってこうか?」
「いいっていいって暑いし、それよりせっかくの夏休みなんだしお前も彼女つくるなりバイトするなりしろよな、じゃ、またな」
「分かった分かった、暗くなるから気を付けろよ」
油断した。最後に痛いところを突かれてしまった。しかし、悪友兼親友と呼べる彼の助言を無下にはできない。使う機会は来ないと思うが心の
「答真、ご飯だよ」
「流石姉さん、ちょうどお腹が空いたところさ」
腹を空かしては戦はできぬ。戦う予定はないが、備えあれば憂いなし。満たしておいて損な腹もなしという訳だ。
「いざ、関ヶ原という名の食卓へ」
「あんた何言ってんの?」
「ついて参れ!」
「はいはい」
この匂いは、もしや。
「今日はカレー?」
「正解!」
「いいね、こんな暑い日にはカレーが似合うよ」
「じゃあ準備手伝ってね」
「オーキードーキー!」
僕らは二人で暮らしている。というのも両親は既に離婚していて僕らは母親について来たのだが、母さんは海外出張も難なくこなす現役のキャリアウーマンとやらで殆ど家に帰らない。どうやらそれが離婚の原因の一つでもあるらしいが。そんなこんなで実質的に二人暮らしになっている。
「よーし、それじゃお手を拝借、頂きま
す!」
「頂きます」
それでもこの生活も悪くないとは思う。
「どう?美味しい?失敗してない?」
「うん、特に福神漬けが美味しい」
「福神漬けがかよ!」
この頃福神漬けの良さが分かるようになった。もっと子供の頃は絶対に食べない派閥に所属していた僕も晴れて福神漬け同好会の仲間入りである。僕も少しは大人に近づいているという証拠だろう。
「そういえばさ、あんたバイトする気ない?」
「ドユコト?」
「いやさ、わたちゃんが私にバイトしないかって誘ってきたんだよね」
「
「うん」
急な誘いだが一応聞いてみよう。
「何のバイト?」
「細かいことは分かんないけど、なんかわたちゃんが所属してる研究所の博士のお手伝いだって言ってたけど」
「なにその胡散臭いバイト」
怪しすぎる。こんなオレオレ詐欺のテンプレート並みに怪しいのはいかがなものか。
「まぁ私もそう思ったけど、わたちゃんだし」
確かに明日香さんが詐欺紛いのものに騙されてるとは思えないし、姉さんを騙そうとしてるとも思えない。
「姉さんが行けばいいじゃん」
「私は大学と自分のバイトで忙しいからさ、それに家でごろごろしてるよりはいいと思わない?お小遣いも手に入るぞー?」《ルビを入力…》
ごもっとも。この夏休みという青春黄金期に何もしないのはもったいない。それに先程仕舞っておいた助言を使う時が熟成もとい腐敗を進めることなくやってきた。しかし、十七年もの間純潔を守り抜いた賢者が急にチャラ男にジョブチェンジするのも難しい。青春黄金期をメッキで終わらせない為にもここはバイトの案を採用するとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます