第6話 家政婦失格

「お風呂沸かすから沸いたら先に入れ」

 

 

 柚稀は自宅に着くなり紗良へそう告げた。

 

 

「いえ、私は後でいいので柚稀さん先どうぞ」

「いいから先入れ」

「は、はい」



 柚稀の押しに負けた紗良は先にお風呂に入ることになった。



「(はぁー。なんか凄いことになっちゃったな……。

早くお家に帰りたいよ。夢だったらよかったのに……)」



 湯船に浸かりながら落ち込む紗良。



「(このマンション広いしお風呂も広いしジャクジーあるし……。

こんな体験滅多にできないからよかったのかな……。いや、いいわけないよ!

だってなんか私とは住む世界が違うしあの人怖いし。もう嫌……)」



 そう、このお風呂にはジャクジーがありとても広いのだ。



 こんな体験は滅多にできない。


 

 そんな所で1ヶ月も暮らすのだ。知らない異性と。

 


 そんなことになれば自問自答もしたくなるだろう。



「……お風呂、ありがとうございました」

「ああ」



 リビングに居る柚稀に声をかけた紗良。


 だが、柚稀はパソコンに向かったまま視線を動かさず返事をするのみだった。



「おやすみなさい」

「ああ」



 リビングを後にした紗良は部屋へ向かった。



「はあー疲れた。もう嫌だ。寝よ」



 そのまま布団に潜り込み意識は夢の中へ。




       * * *




「おい、起きろ。お前もう帰っていいぞ」



勝手に紗良の部屋に入ってきた柚稀は、ベッドに眠る紗良を揺さぶり起こす。



「え? 家政婦と嫁? というのは……?」

「あ? あんなの嘘に決まってんだろ。それとも……ほんとに俺の嫁になるか?」

「なっ……! ならないです! じゃあ帰りますね。1日お世話になりました」



真顔で問いかける柚稀に紗良は勢いよくベッドから飛び起きる───

 

 


       * * *




「おい、起きろ。おい!」

「え……。あ、私帰りますね」



再び、柚稀に起こされた紗良。

ベッドから起きた紗良は、先程のことを思い出しそう伝えるも……。


「は? なんで帰んだよ。昨日から1ヶ月の契約忘れたのか?」

「え……でも、さっき嘘だって……」

「何寝ぼけたこと言ってんだ。早く起きろ。ご飯できてっから」

「(え、さっきのは夢……? なんで夢なのよ。帰れると思ったのに……)」



 どうやら先程のは夢だったようで、現実を知り酷く紗良は落胆した。



「え、ご飯……。あ! ごめんなさい」



 紗良はベットから勢いよく飛び出し謝罪した。



「お前、家政婦失格な」

「失格って……。何も教えてもらってないのにできるわけないじやないですか!

聞かなかった私も悪いですけど……」

「……後で説明する。とりあえず朝飯な」

「はい」



 着替えを済ませた紗良はリビングへ向かった。



「すいません、おまたせしました……わー! 凄い美味しそう……」



 紗良はダイニングテーブルに並べてある料理を見るなりそう口にした。



「美味しそうじゃなくて美味いんだよ」

「これ、柚稀さんが作ったんですか?」

「他に誰がいるんだよ。家政婦はなかなか起きてこないからな」

「す、すいません……」



 柚稀の睨みに恐怖を感じた紗良は咄嗟に謝るもそれは今にも消え入りそうな声だった。



「いいから食べろ」

「はい、いただきます」

 


 ダイニングテーブルには、サラダ、オムレツ、バターロール、コーンスープだ。

 


 柚稀の見た目からは想像のつかない出来栄えだ。



「美味しい……」

「当たり前だ。俺様が作ったんだからな」

「はあ」

「(俺様……。この人俺様なの? もうよくわかんない!)」



 食事を終えた柚稀は席を立つとキッチンに食器を置いた。



「あ、私……洗います」

「(ほんとはやりたくないけど……これもお金を返すためだ。頑張ろう)」

「ああ、割るなよ」

「はい、気をつけます」

「(もう、一言多い。ああ! 早く帰りたいよ……)」



 紗良は心の中で文句を言いながらも皿を洗い始めた。





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