第163話:みんなで遊ぼう!

「いいか者ども! 今日は一日遊び倒すぞぉ! その覚悟はできているかぁ!?」

「サー! イエス! サー!」

「宮本一等兵! そこはマムだよ!」

 大槻さんの指摘に対してアイ・アイ・マム! と敬礼しながら言い直す結ちゃん。ちなみに俺や楓さん、伸二や二階堂は二人のノリノリ具合を眺めて、ただただ苦笑いを浮かべるばかりだ。

 明日で終わってしまうゴールデンウイークを前に突如昨晩大槻さんから楓さんにこんなメッセージが届いた。


『みんなで一日遊びたい!』


 そこから話はとんとん拍子に進んでいつもの五人に結ちゃんを足したメンバーで遊ぶことになった。そして欲張りな大槻さんが選んでやって来たのはボーリングからゲームセンターにカラオケ、バッティングセンターを兼ね備えたなんでもござれの総合エンターテイメントメパーク。本気度がうかがえるな。


「まずはチームに分かれてのボーリングだよ! ここは平等にグー・チョキ・パーで決めようね!」

「はいはい! 私は勇也君と同じチームがいいです!」

「楓ちゃん、人の話を聞いていたかな? 今私平等って言ったよね!? こういう時だからこそいつもと違う組み合わせがいいんじゃない!」


 大槻さんは拳を掲げて力説しているが俺もその通りだと思う。普段楓さんと一緒にいる時間が長いからこそ、こういう遊びの時くらいは別々のチームに分かれて戦うというのは燃えるものがある。負けっぱなしではいられない。


「勇也君、グーを出してください! 一緒にグーを出して同じチームになりましょう!」

「だからね楓ちゃん。何を堂々と宣言しているのかな?」

「そうだよ、楓ねぇ! 今日くらいは吉住先輩を貸し出してください!」

「よく言った、結」

 堂々と不正取引を持ち掛けてくる楓さんに大槻さんが肩をすくめながら至極当然の突っ込みを入れ、結ちゃんが俺をマスコット扱いする。何故か二階堂がそんな結ちゃんの頭を撫でて褒める。

 楓さんが出すならグー以外にすればいいか。そう決めかけた時に頭の中に警鐘が鳴った。本当にそれが正しい選択か? これは楓さんの作戦なのでは? グーを出してくださいとみんなの前で宣言することで、俺の選択肢をチョキかパーの二択に狭め、あわよくば俺と偶然を装ってペアを組むことを狙っているとは考えられないか?


「…………フフッ」


 楓さんがウィンクしながら不敵にほほ笑んだ。これは確定だ。楓さんの先の宣言はブラフ。出すのはおそらくチョキかパー。なら俺が出すべき手はグー一択。ガバガバ論理とか言うのは無しだ。


「それじゃ行くよ……グーチョキパーで分かれましょっ!」


 大槻さんの掛け声に合わせてみんなが一斉に役を出す。俺が出したのは当然グー。楓さんが出したのは予想通りグーではなくチョキだった。そしてチーム決めはなんとこの一回目ですべて決まった。


「おぉ! まさか一発で決まるとはなんて偶然! シン君とは残念ながら離れちゃったけど仕方ないね!」

「あぁ……勇也君と離れ離れになっちゃいましたぁ……」

「もう! そんなこと言わないで! 一緒に頑張ろうね!」

 仕方ないと笑う大槻さんに対してがっくりと肩を落としてしょぼんとする楓さん。大槻さんもチョキを出したのでめでたく同じチームになったんだからそんな落ち込まないの。ポンポンと俺が楓さんの肩を叩いていると、


「まさか吉住と同じチームになれるとはね。よろしくね」

「あぁ、よろしく頼むな、二階堂」


 俺と同じくグーを出して相棒となった二階堂が声をかけてきた。これにはさすがに驚いた。どうして二階堂はグーを出したんだろうか。もしかして楓さんの宣言に合わせて俺がグーを出すと思ってそれを阻止しようと考えたのか? 


「まぁそんなところだよ。吉住と楓が同じチームだと私たちは糖分過多で倒れちゃうからね。それを阻止しようと思っただけだよ」

「やっぱりそうだったか……」


 策士策に溺れたな、楓さん。心理戦を仕掛けることはせずにシンプルに宣言通りにしていればあいこでやり直しだったろうに。無駄に策を弄するからこういう結果になるんだ。というか二階堂、いくら俺と楓さんでもボーリングをしている最中に糖分は振りまかないぞ?


「そんな言葉を信じる人はこの場にはいないよ、勇也。課外合宿の時のスキーを忘れたとは言わせないよ? あ、よろしくね、宮本さん」

「は、はい! よろしくお願いします、日暮先輩! 課外合宿のスキーって何ですか?」


 パーを出した二人は伸二と結ちゃんだ。意外な組み合わせではあるが、こうして並んでいるのを見ると案外似た者同士かも知れない。むしろ犬系兄妹か?


「……その話はボーリングをしながら話すよ。勇也がどれだけ一葉さんに甘えていたか、事細かに教えてあげるから楽しみにしててね」

「はい! なんだか糖分ダバダバで大変なことになりそうですが、楽しみにしています!」

「別にそんな楽しい話でもないと思うけどな。それに俺は楓さんに甘えてなんかいない。どちらかといえば楓さんの方が―――」

「あの時は大変でした……スキー初心者の勇也君に私が手取り足取り教えてあげて……リフトに乗っている時も怖くて震えていて……そんな勇也君の手を私が握ってあげたんですよね」


 楓さんが頬に手を当ててうっとりした顔で思い出を懐かしんでいるがちょっと待ってほしい。俺はリフトに乗っている時に生まれたての小鹿のように震えてなんかいないからな!? 手を繋いだのは事実だけどそれ以外は捏造だ!


「もう、勇也君たら照れちゃって。どうしよって震えていたのを忘れちゃったんですか?」

「それは降りるときの話だよね!?」

「二人とも。イチャイチャするのはその辺にしてそろそろ行くよ!」


 大槻さん、これは記憶のすり合わせであってイチャイチャじゃないからね!? 楓さんも笑顔で腕を絡めて来ないで! ここは家じゃないんだ。人目がたくさんあるんだから恥ずかしいよ!


「……日暮先輩。何か言うことはありますか?」

「……うん。なんかごめんね、宮本さん」

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