156話:この後はどうしようか?

「楓ちゃん、また来てね!」


 バイバイと手を振る店長さんに見送られて、俺達はメイド服専門店を後にした。腕を組んで歩く楓さんは満足いく買い物が出来たようでホクホク顔だ。


「えへへ。これでいつでも〝君が主で私がメイドで〟ごっこが出来ますね! あ、この才だから勇也君も燕尾服買いませんか? 執事さんの格好、絶対似合うと思います!」

「丁重にお断りさせていただきます」

「どうしてですかぁ!? この間はノリノリだったじゃないですか!」


 あの時は仕方なくやっただけです。普通にやる分にはまぁいいとしても燕尾服を着て楓さんの執事になりきるのは端的に言って恥ずかしい。どうせ楓さんのことだから写真を撮るでしょう?


「当然ですよ! 勇也君の燕尾服姿ですよ!? 写真に収めてスマホの待ち受けにします!」

「うん、だから絶対に着ない」

「そんな殺生なぁ!? 私は勇也君にメイド服姿を写真で撮ってもらっていいと思っているのに! 待ち受けにしてくれますか?」

「もちろん写真には収めたいけど、待ち受けにする場合、誰にも見られないように気を付けないといけないけどね」


 楓さんのメイド服姿という貴重な写真は誰にも見せたくない。それは親友である伸二であっても例外ではない。もしあいつに見られたら大槻さんに話が回って盛大にからかわれるだろうし、二階堂からは極寒の視線を浴びせられるだろう。


「そういうわけだから楓さんのメイド服姿は個人的観賞用で待ち受けにはしないかな」

「フフッ。もう、写真を鑑賞するくらいならいつでも言ってください。〝俺専用のメイドになってくれ〟って。そうすればいつでも私は勇也君のメイドさんになってあげます。もちろん、色々ご奉仕しますから」


 ニヤニヤと小悪魔のような笑みを浮かべる楓さん。この人はこうやっていつも俺をドキットさせて照れさせようとからかってくる。だけど―――


「そういうことなら今夜は俺専用のメイドになってもらおうかな。あ、言っておくけど主の命令には絶対だから覚悟しておいてね?」


 たくさん可愛がってあげる、と最後の一言だけ耳元で囁いた。すると案の定楓さんは顔から耳までゆでだこのように真っ赤にして驚愕の表情を浮かべる。


「ゆ、勇也君がそこまで言うなら私……が、頑張ってご奉仕します……!」

「うん、冗談だから真に受けないでね? というか楓さんにメイド服姿で迫られたら俺の理性君は死んじゃうからほどほどにしてね?」

「フフッ。だが断ります! 勇也君には日ごろの感謝を込めてお返しがしたいんです。だから大人しく私のご奉仕を受けてください。いいですね?」


 それを言ったら俺は楓さんから返せないくらいの恩を貰っている。今こうして高校生として普通に生活できるのも、幸せな毎日を送ることが出来ているのも全部楓さんのおかげだ。


「楓さんと一緒の時間を過ごす。それだけで俺にとっては十分だよ。ありがとう」


 ポンポンと頭を撫でる。肩ひじを張らないでいいんだよと思いを込める。まぁ楓さんの場合は楽しんでやっている節もあるから何とも言えないが。


「もう……勇也君の馬鹿。でも……そういうところが大好きです」


 どこか不満そうに言うが、その頬には朱が差しており表情も柔らかい。腕を抱く力が一層強くなり、まるで離れないと意思表示をしているかのようだった。


「さて。買い物は終わったけどこの後はどうしようか?」

「そうですね。まずはお昼ご飯を食べましょうか。その後に行きたいところがあります。こちらが今日の本命です」


 本命がまだあったのか。俺はてっきりこのメイド服の購入が今日の一番の目的だと思っていたのだが。ちなみにその本命というのなんですか?


「フフッ。それはですね―――昼間でも満天の星を観ることが出来る場所です!」

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