第148話:家に帰ったら二次会ですね!
祝勝会は19時半過ぎに解散となった。いくら担任の藤本先生が引率しているとはいえ、遅くなったら家族が心配するから仕方ない。
「俺の取り分が……せっかく勝負に勝ったのに
「生徒をダシにしてアホなことをやるからそのツケだろ? びた一文負けてやらないから気前よく支払いしろ!」
頼れる我らが担任教諭はお会計の際に友人である店長さんの容赦ない小言に涙を流していた。すっからかんになった財布を死んだ魚のような目で見ている姿は何ていうのかすごく可哀想だった。
「それじゃ勇也、一葉さん。今日はお疲れさま! 帰りは気を付けてね!」
「楓ちゃん、イチャイチャするのは家に帰ってからにするんだよ?」
ニヤニヤしながら大槻さんは言うが、さすがの楓さんもそのくらいわかっているさ。今までだって帰宅中にイチャイチャしたことはない。
「それはどうだか。無自覚に砂糖をばら撒くのは吉住の十八番だからね。というか本人たちは気付かないってよく言うしね」
ニヒルに笑う二階堂。ひどい言い草だな。帰る時はいたって普通のカップルと同じだぞ? むしろ伸二と大槻さんの方がべったりくっついていると思う。俺と楓さんは仲良く手を繋ぐくらいだからな。
「そうですよ。仲良く手を繋いでいるだけです。秋穂ちゃん達みたいに腕を組んでべったりくっついていたりはしませんよ」
オホホホとどこぞのご令嬢のように口元に手を当てて笑う楓さん。いや、楓さんは立派な社長令嬢か。しかも創業100周年を迎える老舗の大企業の一人娘。アニメや漫画にありがちな高飛車というか高圧的というか、そう言う嫌味な雰囲気を出さないから忘れそうになる。
「またまたぁ! 本当は腕を組んで歩きたいのを我慢しているだけなんじゃないのぉ? そこは素直になっちゃいなよぉ、ユー!」
大槻さんがにやけた顔で大物プロデューサーの物まねをしながら楓さんの脇を肘でツンツンと小突く。くすぐったそうに身をよじりながら、楓さんは力強くこう言った。
「お家に帰ったらその分勇也君に甘えるからいいんです! 常にべったりではなく、時には我慢することも大切だって学んだんです!」
ぐっと拳を作ってアピールする楓さん。いつどこでそんなことを学んだんですかね? 隙あらば一緒にお風呂に入ろうとして来たり、寝るときは俺の子を抱き枕替わりにしようと密着して来たり、我慢できてないと思いますが?
「そんな……!? も、もしかして嫌でしたか? 私にくっつかれるの……嫌でしたか? もしそうならが、我慢します!」
「俺は一言も嫌だなんて言ってないけどね?」
だがそうは言っても、ありがたみというか新鮮さは薄れかねない。そう言う意味では時にはくっつかずにいるのもいいかもしれない。そうすれば楓さんを抱きしめた時に感じる温もりとか幸福感は倍増するはずだ。
「吉住……楓を甘やかしすぎたらダメだよ? 毅然とした態度で接しないと」
「なぁ俺か? 俺が悪いのか?」
「だって……私の時は……いや、なんでもない。うん、何もかも全部吉住が悪い!」
腕を組んでうんうんと頷く二階堂。それはちょっと理不尽じゃないですかね、二階堂さん? 異論は受け付けないとばかりにそっぽを向くな! 俺にも反論させろ!
「二階堂さんの言う通りだよ、勇也。一葉さんと付き合い始めてからの勇也は、とにかく身体から一葉さん大好きオーラを出しているんだよ。少しは自重したほうがいいと思うよ?」
「それはお前にだけは言われたくないなぁ、伸二!」
バカップルと呼ばれている男に言われると無性に腹が立つ。一発頭を叩かないと気が済まないが、伸二は大槻さんの手を取って脱兎のごとく逃げ出した。言い逃げとはいい度胸だなぁ!?
「アハハハ……それじゃ私も疲れたからこの辺で失礼するね。今日はお疲れさま」
ひらひらと手を振って、二階堂は駆け足で伸二達の後を追った。三人して酷いな。電車の方向は逆とはいえ置いていかなくてもいいじゃないか。
「勇也君の言う通りです。みんなして私達のことをバカップルとかメオトップルとか酷いですね。いたって普通なのに……」
「そうだよね。俺達、そんな特別イチャイチャしているわけじゃないよね」
苦笑いをしながらそう言う楓さんに俺は全面手に同意した。去年の伸二と大槻さんのカップルの方がよっぽどべったりしていたと思う。所かわまずイチャつくものだから、あの二人はバカップルとして校内で有名になったのだ。
「秋穂ちゃんと日暮君のカップルは有名ですからね。秋穂ちゃんも男の子から結構告白されていましたけど笑顔で一蹴していました」
「伸二も似たようなものだよ。想像つかないと思うけど、そっけなく断るんだよ、あいつ。大槻さんしか眼中にありません! って感じだな」
伸二は見た目の通り可愛い系の男子だから、同級生よりも学園が上の先輩から告白されることが多かった。でも大槻さんに一目ぼれして交際を始めたからすべて断る徹底ぶり。大槻さんを悪く言うようなことがあれば豹変する溺愛ぶりだ。あれ、俺も同じじゃないか?
「フフッ。そんな似た者同士だから、勇也君と日暮君は親友なんだと思いますよ? さぁ、私達もそろそろ帰りましょう! 二人きりで祝勝会の続きをしましょう!」
グイっと腕を組んで身を寄せてくる楓さん。家に着くのは20時過ぎか。寝るまでずいぶん時間があるな。それに世間はすでにゴールデンウイークに突入しているから朝寝坊しても許されるから夜更かしだって―――
「ご褒美……期待していますよ?」
耳元で艶のある声で囁かれて俺の心臓がドクンと大きく跳ねる。ご褒美、どうしよう。何も考えてなかった。
「それなら……私の要望に答えると言う形でもいいですよ? 安心してください。無茶なことは言わないので!」
うん、そう言われるとかえって安心できないよ、楓さん。
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