第123話:バブルバスタイム
楓さんとの泡風呂はすごく良かったです。
「勇也くん! すごいですよ! 泡泡してます! 早く来てください! 一緒に遊びましょうよぉ!」
俺の渾身のモノローグを一瞬で破壊する楓さんの楽しそうな声。俺はため息をつきながら服を脱ぎ、用意されていたタオルを腰に巻いて浴室の扉を開けた。心を落ち着かせるシナモンの穏やかな香りが充満していた。
「すごいです! 見てください、勇也君! まるでお風呂が青空みたいになっていてます! この泡は空に浮かぶ雲みたいです!」
キャーーーとはしゃぎながらバタバタと湯船の中で暴れる楓さん。早く来てくださいと手招きするので俺は身体をさっと洗ってから楓さんと向き合う形で身体を沈めた。
「へぇ……確かにすごいね。お湯の色が綺麗な青色だ。肌もなんだかスベスベになってるし、たまにはこういうのも良いかもね」
しかも大量に浮いている泡が楓さんの白雪の肌を適度に隠しているので普段とは違う色気を感じる。あの泡の下には何があるのだろうか、そんな期待と興奮に心を奪われる魅惑の入浴タイムだ。まぁ間違いなくバスタオルを巻いていると思うけどね。
「ねぇ……勇也君。どうして反対側、しかもそんな端っこに座っているんですか?」
楓さんは頬を膨らませながらジト目で俺のことを睨んだ。いや、何でって言われてもこれがいつものスタイルだと思うんだけど?
「違います! 記憶を捏造しないでください! 一緒にお風呂入る時はいつも私が勇也君のことを後ろからぎゅって抱きしめていました!」
「それこそ記憶の捏造じゃないかな!? そりゃ確かに楓さんに後ろから抱きしめられたことはあったけどいつもじゃないよね!? と言うかそんな言うほど一緒にお風呂に入ってないよね!?」
「いーーーやーーーでーーーすぅーーー! 勇也くんと密着したいんですぅ! ぎゅってさせてくださいよぉ!」
バシャバシャと水面を叩く楓さん。こら、水しぶきが飛んできて目に入るでしょうが! せっかくの泡が弾けちゃうよ!
「むぅ……勇也君が来ないというならこっちから行きます! 虎穴に入らずんば虎子を得ずです!」
「それは意味がなんか違くないか……って、楓さん、あなたまさか―――!?」
気付いた時には時すでに遅く、楓さんが盛大に水しぶきと泡をまき散らしながら俺の胸の中に飛び込んできた。むにゅっとした天にも昇る感触が身体に伝わり、俺は全てを理解した。
「フフッ、気付いちゃいましたか? そうです。今の私は……は・だ・か、です。タオルは始めから巻いていませんよ」
「なっ……どうして……? 今までそんなことなかったのに……!」
楓さんと結ばれて以降、少ないながらも楓さんと一緒にお風呂に入ることはあったが必ずスク水着用か、もしくはバスタオルを巻いていた。それなのにどうして今日は何も身に着けていないんだ!?
「泡風呂なら身体が隠れるじゃないですか。現に今もこうして勇也君にダイブしましたけど泡はまだたくさんありますし。それにこの方が勇也君の熱とか、心臓の音とか、すごく感じるんです」
ハァ……とうっとりした吐息を吐きながら、楓さんは静かに俺の腰に腕を回して頭を心臓の位置にぴとっと寄せた。ヤバい、ただでさえ楓さんの双丘を押し付けられて心臓の鼓動が早くなっているのに裸だってことがわかって大変なことになっている。それを聞かれたら―――
「勇也くん……すごくドキドキしていますね……」
「だ、だって楓さんと一緒にお風呂入っているんだし……そ、それに……」
「それに、なんですか?」
「か、楓さんが裸って言うから……その、緊張しているというか興奮しているというか……あぁ、もう! 言わせるなよ!」
自分でも顔が熱くなっているのがわかる。そんな顔を楓さんに見られるのが恥ずかしくて俺はそっぽを向いた。
「ドキドキしているのは……勇也くんだけじゃないんですよ? わ、私だって……す、すっごくドキドキしてるもん」
楓さん、上目遣いで潤んだ瞳を向けるのは反則ですよ? 俺の心臓を狙い撃ったんですか? もしそうならその作戦は大成功だ。ズッキューンと撃ち抜かれたよ。
「勇也くんも私の心臓がどうなっているか……耳を当てて確かめてみてください」
バシャっと音を立てて楓さんが浴槽の中で膝立ちになる。所々に泡が付いており、それはまるで女神の裸身を守る鎧の様だ。けれどそれはむしろ秘されているものを暴きたいという俺の中にある欲情を掻き立てる剣でもある。
「ほら……聞いてください。私の心臓の音……すごいですよ?」
固まって動けずにいる俺の頭を優しく包み、そのまま自分の心臓のあるところに導かれた。
「か、楓さん……あの……これは……」
「こ、これでわかりましたよね? 私もすごくドキドキしているのが……」
はい、わかります。わかりますけどそれどころじゃありません。楓さんの胸に顔を押し付けられている状態なんだよ? シルクのような肌触りがよく、その上でふにゅっとした俺をダメにするおっぱいに顔を沈めているのだ。甘いシナモンの香りが俺から思考を奪っていく。
「ねぇ、勇也くん。どうして何も言ってくれないんですか?」
楓さんがどこか切なげな声で尋ねてくるが俺はそれどころではない。腰に腕を回して離さないとわかってもらうように抱きしめる。
「あっ……勇也くん……」
「ごめん、楓さん……もう……無理だわ」
美味しいとわかっている極上の果実を目の前にして我慢できるはずもない。俺の中の狼さんスイッチが入ったことに気付いた楓さんは頭を撫でながら、
「フフッ。勇也くん……優しく食べてくださいね?」
「……善処します」
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