第122話:宮本さんの謝罪

 来客は宮本さんだった。しかもその手にはなぜか菓子折りがあり、


「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


 開口一番謝罪の言葉を述べると深々と頭を下げた。突然のことで俺と楓さんは何のことだかさっぱりわからない。宮本さんにはむしろお世話になっているから感謝したいくらいだ。


「娘の結から話を聞きました。お二人の邪魔をするようなことをしたようで……」


 なるほど。結ちゃんが今日あった出来事を話したのか。でもそれがどうして謝罪に繋がるのか、俺にはさっぱりわからない。


「頭を上げてください、宮本さん。結ちゃんは別に何も悪いことはしていませんよ? そうですよね、勇也君?」

「えぇ。久しぶりに楓さんと会えて嬉しかったんだと思いますよ? 迷惑だなんて思っていませんよ」

「それならばよろしいのですが……いつもは二人きりで帰宅されるお二人と一緒に途中まで帰って来たとも話しておりまして……」


 あぁ、と俺は思わず声を出しそうになった。部活が終わり、いつものように待っていてくれた楓さんと帰ろうとしたら結ちゃんがやって来て一緒に帰ることになった。


 どうやら結ちゃんはバスケ部に入部するようで、今日はサッカー部と同様に歓迎の意味を込めて在校生と紅白戦をしたそうだ。そこで二階堂のプレイに圧倒され、感動してファンになったそうだ。あいつも罪な女だよな。


 結ちゃんは俺達とは反対方向の電車に乗るから駅で別れたのだがそれまで彼女はずっと喋っていた。マシンガントークとはまさにこのことだ。大槻さんもよくしゃべる方だが結ちゃんはそれ以上かもしれない。


「フフッ。大丈夫ですよ、宮本さん。一緒と言っても駅までの道のりですから。高校生活に慣れてくればいずれ解消されますから私達は気にしていませんよ。そうですよね、勇也君?」

「楓さんの言う通りですよ。高校生になってまだ一週間も経っていないんです。友達が出来ればなくなると思います」


 それに結ちゃんは楓さんにとって妹みたいな子だ。ということは俺にとっても妹のような存在にと言えるだろう。それに俺も楓さんも一人っ子だから結ちゃんみたいな元気いっぱいの子は可愛い。つい甘やかしたくなる。


「ありがとうございます。お二人にそう言っていただけて安心しました」

「はい、安心してください。だから結ちゃんのことをあまり怒らないであげてくださいね?」

「それは……善処いたします。これ以上長居をしたら私がお二人のお邪魔になってしまいますね。夜分遅くに失礼しました」


 深々と一礼して宮本さんは帰っていった。俺達にとっては気にも止めないことだったのにわざわざ菓子折りを持って謝罪に来るなんて、宮本さんの教育方針は少々厳しすぎじゃないかと俺は思った。


「仕方ないですよ。ある日突然ご両親が蒸発して借金だけが残った勇也君ほどではないですが、宮本さんも相当苦労されたそうですから」


 両親が借金残して消えたことを知った時は驚きと悲しみ、そして言い知れぬ孤独を覚えた。けれどそれに囚われる前に楓さんが助けてくれたから俺は今こうして幸せに暮らすことが出来ている。


「宮本さんにとってはそれが私の祖父だったみたいです。それ以来一葉家に対して宮本さんは忠義に厚いんです。だからこそ、娘の結ちゃんが迷惑をかけていると思うと居ても立っても居られなくなったんだと思います」


 気にしなくていいのに、と楓さんは苦笑いをしながら言った。そうだな。当事者である俺達は結ちゃんのことを迷惑だなんて思っていないもんな。宮本さんの杞憂ってやつだ。


「勇也君も同じ考えで安心しました。それに……フフッ。私も勇也君とこうして一緒に暮らせて幸せですっ!」


 ぽふっと勢いよく俺の胸の中に飛び込んでくる楓さん。突然のダイブは危ないからやめてほしいと思うが、楓さんの柔らかい果実の感触と心安らぐ香りの前にそんな文句はすぐに霧散する。


「そろそろお風呂の準備もできると思うので、このままぎゅーってしたまま浴室に行きましょう! えへへ……勇也君と泡風呂だぁ……」


 ふにゃけた顔の楓さんは密着度を高めて俺のことを浴室まで押していこうとする。このまま押し切られたらその後に待ち受けるのは嬉し恥かし脱衣タイムだ。それだけはなんとしてでも避けなければならない! ならないのに胸に伝わる感触が俺から力を奪っていく!


「勇也君の弱点は把握しています。勇也君は大好きですもんね? 私のおっp―――」

「だぁああああああ!! それ以上は言わせねぇよ!!??」


 耳元で甘く囁く楓さんの言葉に俺の中に眠っていた火事場の馬鹿力が目を覚まして引き剥がすことに成功した。確かに好きだけどね! 


 楓さんの果実は大きいだけでなく形も芸術品のごとくハリのある美しさ。それでいて顔を埋めたらどこまで沈んでいきそうになるくらい柔らかくてモチモチしているのでまさにパーフェクト。夢と希望と愛に溢れている。俺は何を語っているんだ? 別に楓さんのおっぱいに顔を埋めたりして甘えたわけじゃないからな? 


「もう……勇也君のエッチ」

「なんでそうなるんだよ!?」

「むしろむっつりスケベさんです。そんなに好きならどうして私の泡泡サービスを断るんですか? せっかく勇也君のことを悦ばせてあげようと思ったのに……いけずぅ」


 あれ、なんか感じが変わってないですかね? 漢字だけに。そんなボケをかましている場合じゃない。このままでは俺がむっつりスケベになってしまう。


「そこまで言うならお願いしようかな。楓さんの泡泡なサービス。身体を洗ってくれるんだよね? それに……気持ち良くしてくれるんだよね?」

「……へっ? ゆ、勇也くん?」


 楓さんの頬に優しく撫でてながら顎をクイッと持ち上げる。何度味わっても飽きることのない桜色のぷっくらとした唇。突然のことに戸惑いながらも何かを期待している顔。ホント、可愛いなぁ。


「でも、楓さんばかりにしてもらうのは不公平だから俺も楓さんの背中を流してあげる。体の隅々まで綺麗にしてあげるからね」

「—―――――――――――!!!!???」


 ボンッと一瞬で楓さんの顔が真っ赤になる。理解できる限界値を超えたのか頭からもくもくと湯気が立ち上っている。我ながら変態的な物言いだと思うが、調子に乗る楓さんにはいい薬になるだろう。何事もステップを踏んでいかないとね。


「ゆ、勇也くんのバカっ! そんなの恥ずかしすぎます!」

「なら、今日の所は泡風呂だけだね。ほら、先に行ってどんな感じになっているか確かめておいでよ。俺は後から行くからさ」


 ゆでだこ状態で身体から力の抜けた楓さんを浴室へと押し込んだ。扉を閉めて一息つきながら俺は天を仰いだ。


「はぁ……相変わらず刺激が強すぎるよ、楓さん」


 元凶の桜子さんにお説教と感謝の電話をしておこうかな。



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