第121話:桜子さん直伝のサービス
「今日の勇也君は最高にカッコ良かったです! やっぱりサッカーをしている時の勇也君は違いますね!」
「もう……何回同じ話をするのさ。恥ずかしいから勘弁してくれ」
夕食を食べながら楓さんはもう何度目かわからない今日の紅白戦の感想を話し始めた。俺としてはもう十分お腹いっぱいなんだけど楓さんは話足りないみたいだ。
「だってだって! 笛が鳴る直前に勇也君がぐわって髪をかき上げたのは本当にカッコ良かったですし日暮君からの長いパスに勇也君が風の様に相手を置き去りにして華麗に走ってそのままシュートしてゴールとかもう本当にカッコよくてときめいちゃいました!」
一息でまくし立てる楓さんの瞳はまるでスター選手を生で見た子供のようにキラキラと輝いていてただただ俺は恥ずかしくて愛想笑いしかできない。
「隣にいた秋穂ちゃんも言っていましたよ? サッカーをしている時の勇也君は別人みたいだって。でも日暮君を応援している秋穂ちゃんも別人みたいでしたけどね!」
にゃははと笑う楓さん。この無駄にハイテンションな感じはあれだ、酒を飲んだ母さんにそっくりだ。まぁそれはいいとして。大槻さんも別人だったのか。どんな感じだったのか気になるな。
「フフッ。日暮君を見つめる秋穂ちゃんは乙女でした! ずっと祈るように手を握ってグラウンドの中に日暮君の心に向かって応援していました。意外だと思いませんか?」
確かに、普段の伸二大好きオーラを全開放出している大槻さんのことだから楓さん以上に大はしゃぎで応援している者だと思ったらまさか静かに祈っていたとはな。想像するとなんだか可愛い。これがギャップ萌えか。それを言ったら楓さんが大はしゃぎで応援しているのもギャップ萌えで可愛いんだけど。
「もう、一生懸命応援していたのに大はしゃぎって言うのは酷いです! そりゃ勇也君がグラウンドを縦横無尽に走る姿がカッコよくてテンション上がってしまったのは認めますが……それもこれも勇也君がカッコいいのがイケないんです! 私は悪くありません!」
「それは暴論だよ、楓さん」
何故か知らないうちに俺が悪いことになってしまった。解せぬ。反論したいが楓さんはけらけらと笑うばかりで取り付く島もない。
「でも勇也君が手加減しなかったせいで、新入生チームのみんながすぐにゾンビみたいになっていましたね。それが少し可哀想でした」
「しょうがないだろう? 楓さんが観ている前なんだから相手がだれであっても全力を出すさ。おかげで試合の途中で交代させられたけどね」
試合開始して十五分で二発ゴールに叩き込んだところで監督からやりすぎだと怒られて交代を命じられた。ちなみに伸二はゲームメーカー的な役割を担っているので最後までピッチに立ち続けた。解せぬ。
あとゾンビみたいな顔になっていた理由は俺が手加減しなかったからではない。その理由は杉谷先輩が教えてくれた。先輩曰く―――
『お前が試合に出ていると一葉さんの声援が止まないからだよ! 日本一可愛い女子高生の声援を独り占めしやがって! フザッケローニだよチクショウ!』
とのことだ。だからゾンビになった原因は楓さんにもあるのだが、それを口には出さないでおこう。だって楓さんの声援は俺だけのものだから。
「それでは。今日一日頑張った勇也君にはご褒美を上げないとですね! お背中お流ししますよ、あ・な・た?」
ちゅっ、最後に投げキッスを飛ばしてくる。どうせならそこは投げるのでは直接キスをしてほしかったなと思いながら、
「いや、自分で流すから大丈夫です」
丁重にお断りしました。なんでかって!? だって最近の楓さんは色々過激なんだもん! 今まではお互い水着―――楓さんは中学時代のスク水―――を着て身体を洗いっこしたけど、あの日以来一糸まとわぬ姿で混浴を求めるようになったのだ。ただでさえ理性が崩壊しないように我慢しているのにシャワーを浴びて濡れて艶やかになった楓さんに迫られたら瞬コロだ。
「どうしてですか!? 勇也君は私と一緒にお風呂に入りたくないんですか!? 背中を流させてくださいよぉ! サービスもたくさんしますから!」
「サ、サービス? ち、ちなみにどんなサービスかな?」
聞いたらダメなのはわかっている。わかっているのだが俺だって一般健康優良男児だ。お風呂でサービスとか言われたら気になってしまう。
「フフッ。それはですねぇ。お母さん直伝の洗ta―――」
「ストーーーーープ!! それ以上は言わせねぇよ!」
桜子さん! あなたって人は高校二年生の女子高生になんてことを教えたんだ! 今度直接電話して抗議してやる!
「どうしてですか!? これをすればお父さんはメロメロになって元気になるって言っていました! 色々コツを教えてもらったから是非勇也君にも味わってほしいんです!」
うん! 言っていることは間違ってないけどね! 俺も味わってみたいけどさすがに過激が過ぎやしませんかね!? だって楓さんの身体が泡泡になって俺に密着して―――ダメだ、想像するだけでクラクラする。普通に一緒にお風呂じゃダメなんですか!?
「フフッ。勇也君、今想像しましたね? 私に身体を洗われることを。どうですか? 気持ち良くなりたくはないですか?」
気付けばいつの間にか俺の後ろに回っていた楓さんに抱きしめられていた。そして耳元で甘い吐息とともに囁いてくる。駄々をこねる子供から一転して魅惑の悪魔に変身するのは反則だぞ!
「頑張った勇也君へ私からのご褒美です。たくさん気持ちよくしてあげますからね。一緒に泡泡になりましょう?」
はむっと耳たぶを甘噛みされた瞬間、俺の心拍数は急上昇した。このままじゃいつものように流されて過激なサービスを受けることになる。
「私は勇也君に喜んで貰いたいだけなんです! だからいいですよね? 一緒に泡泡しましょうよ! 泡風呂とか絶対楽しいですよ?」
首を縦に振らない俺に業を煮やした楓さんが肩をガタガタと揺らしてくる。わかった、泡風呂ならいいから! 背中は流さなくていいから一緒に泡風呂に入ろう! それで今日のところは勘弁してくれ!
「言質はとりました! 今日の所は勘弁してあげます。フフッ。そうと決まれば泡のお風呂の準備をしてきますね!」
あっ、失敗した。あの口ぶりだと事あるごとに聞いてくることになるぞ。楓さんはこういうどうでもいい話でもしっかり覚えているからなぁ。
「勇也君とお風呂! 勇也君と泡泡のお風呂! 楽しみですっ!」
鼻歌交じりで浴室に向かう楓さんの背中を見ながら俺はやれやれとため息をつく。でも内心では実は泡風呂が楽しみだったりもするから我ながら現金だと思う。楓さんの泡まみれの姿か。想像しただけでやばいな。
ピンポ―――ン。
めくるめく幻想郷から現実に引き戻すかのように来客を告げるチャイムが鳴った。一体誰だろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます