第15話:男の料理

「第一回勇也君のお料理タイムのお時間でーーーす! パチパチパチ!」


 スーパーでの買い物を終えて帰宅した時には21時前になっていた。夕食んしては少し遅めになるが仕方ない。一葉さんのテンションが買い物の時よりも高いのが気になるところではあるが、早速作り始めていこう。


「勇也シェフ。今日のメニューはなんですか?」

「今日はペペロンチーノかな。トマトソースとかミートソースの方が好きなんだけど煮込む時間も必要だからそれはまたのお楽しみということで」


 まずはパスタ用の鍋にたっぷりの水と多めの塩を入れて沸騰させる。それまでの間に食材の準備に移る。ニンニク2片、唐辛子は種を取り、パセリは葉の部分だけを千切って全てみじん切りにする。


 お湯が沸いたところでパスタを投入。茹で時間は記載されているところから一分ほど短く設定する。こうすることでソースと合わせる時に加熱するので仕上がった時にちょうどいい固さになる。


 茹で上がる頃になったら、フライパンに先ほど切ったニンニク、唐辛子をオリーブオイルと一緒に入れて弱火でじっくり炒める。焦げないようにフライパンを絶えず揺らすのがポイントだ。ニンニクのいい香りが出てきたらパセリを加えて風味を付ける。


 ここから先は手早くいく。お玉一杯分のゆで汁をフライパンに入れて強火にかけてしっかりとオリーブオイルと混ぜ合わせてから満を持してパスタを加えて絡ませる。


「うん。ちょうどいいかな」


 塩気もしっかり効いているな。早速買ってきたお皿に盛ってコショウ、取り出した唐辛子を盛り付けて完成だ。


「うわぁ。すごいですね、勇也君。手際もいいし盛り付けも上手。私はこんな風に出来ないから羨ましいです。というか私より料理上手じゃないですか?」

「……まぁ母さんが料理上手かったし、俺も料理は嫌いじゃないから時々やってたからな。一葉さんの手料理、楽しみにしてるよ」


 向かい合ってテーブルに座り、少し遅めの夕食だ。オリーブオイルとニンニクの香りに食欲が刺激される。シンプルな味付けだが塩気もしっかりあるし味が薄いなんてことはないから一安心だ。最後に振ったコショウもアクセントになっている。


「ん―――! 美味しいです! ニンニクの強い香りにパセリの爽やかさが混じっているのでとても食べやすいです。コショウの風味もまた食欲をそそります! 勇也君は天才ですか!?」

「……これで天才なら世の中のシェフは神様で、星持ちは創造主か何かになるよ」

「いいんです。私にとってのシェフは勇也君ですから。他の誰が言おうと、勇也君の料理は美味しいです」


 俺はぽりぽりと頬を掻いた。両親以外に料理を振る舞ったのは初めてだったから満面の笑みを浮かべながら美味しいと一葉さんに言ってもらえて素直に嬉しかった。それ以上に照れるけど。


「フフッ。これは私も負けていられませんね。明日は私が作りますから楽しみにしていてくださいね? 勇也君の好きなものを作ってあげますからね!」

「俺の好きな物、何か知っているの?」

「もちろんです。勇也君が一番好きなのはずばりハンバーグです! 普段は菓子パンなのに学食でハンバーグが出る日は必ず食べていますからね。どうですか? 間違っていますか?」

「……正解。俺が学食のハンバーグは欠かさず食べているなんてよく知ってるな」


 えっへんとドヤ顔しているところ悪いけど、それは少し怖いよ一葉さん。一体どこからそんな情報を仕入れたんですか? 一葉さんのような有名人が俺のことを聞いていたらあっという間に噂になると思うけど―――


「フッフッフッ。甘いですよ、勇也君。情報の入手先は何も生徒だけとは限りません。私にこの情報を提供してくれたのは―――学食の皆様です!」


 何してくれてんだよ学食のおばちゃん! ってことはあれか。俺が部活でお腹空かしているのを知っていて時々余り物をこっそり分けてくれたりしているのも全部一葉さんに話しているのか!?


「もちろんです。勇也君の好みから嫌いなものまで。お友達とどんな話をして盛り上がっているかなど色々教えてくれましたよ? 今の勇也君のブームは最近発売されたファンタジーゲームですよね? 巨乳な幼馴染ヒロインの魅力について語っているとかいないとか……」


 どうしてピンポイントで俺達の会話が聞こえているんだよおばちゃん!? あれか、どこかに隠しカメラとか盗聴器が仕込まれているのか!? 怖くて学食いけないんだけど!?


「学食のおばちゃんは特殊能力持ちですからね。それと。食べ盛りの勇也君に学食の余り物を提供してあげて下さいと言ったのは私です。そんなことがどうして私に出来たのかとかは聞かないでくださいね? 禁則事項ですっ!」


 しーと鼻に人差し指を当てながらウィンク飛ばれて俺の心はズッキューンってか。ネタが若干古いけど可愛さは原作さながら。あの巨乳なドジっ子キャラは最強だ。


「そのネタ、よく知ってるね、一葉さん」

「フフッ。あの作品は有名ですからね。私も読んでいましたから。でも私はドジっ子巨乳キャラより文芸部の無口キャラの子の方が好きですけどね」


 一葉さんがライトノベルを読んでいたとは意外だった。それに奇遇なことに俺もメインキャラクターの中では無口キャラが一番好きだ。なぜかって? 普段は感情に乏しい子がデレる瞬間が最高じゃないか。


 なんて他愛もないことだけど楽しく話しながら、俺達は遅めの夕食を楽しんだ。

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