第14話:それはまるで新婚カップルのよう。
朝10時に家を出て、予定通りかっぱ橋で色んな食器を見て回った。食器はおしゃれなものがたくさんあって選ぶのが大変だった。それだけでなくお祭りで使うような機材から食品サンプルのお店なども様々あって見るだけでも楽しい街だった。目を輝かせて無邪気にはしゃぐ一葉さんがとても可愛かった。
お昼を食べておやつの時間になったころに池袋の家電量販店へと向かい、冷蔵庫を含めた家電一式を買い揃えたのだがそれがまた意外と大変だった。
眼鏡をかけて線の細い店員さんが知識もあって詳しいとテレビでやっていたのを思い出した一葉さんがドンピシャな店員さんに声をかけてあれやこれやと話を聞いていた。
しかもこの店員さん、俺達が高校生であることを気にせず、俺達何がしたいのか、何が出来たらいいのかをちゃんと聴いてくれた上でそれにあった商品を一つずつ提案してくれた。話も面白かったし、値引き向こうから言ってきたしすごくいい人だった。しかも面白かったのが、話を聞けば聞くほど一葉電機の家電に決まっていくことかな。さすがに世界のHitotsubaだ。
ただ如何せん話が長かったので、手続きを済ませて会計を終えた時には19時を過ぎていた。
今日の買い物は一葉さんがメインで俺は付き添いみたいな感じだったが、もちろん俺なりに意見は出したぞ。イエスマンになるのは簡単だが、仮にも俺と一葉さんは一緒に暮らすのだ。にも拘らず彼女に任せっぱなしはダメだろう。
そうそう。お支払いは何と驚きのニコニコ一括現金払いだ。分厚い封筒から封のされた札束をポンと出した時は、さすがの家電量販店の愉快な店員さんも固まっていた。俺もあんぐり開いた口が塞がらなかった。
「父から軍資金を託されたんです。そのかわり家電を何買ったかは報告しないといけないんです。その際にあなたの名前を出しますのでお名刺戴けますか?」
「は、はい……」
若干震えながら店員さんは名刺を一葉さんに渡した。受け取りながら一葉さんは女神のような微笑を浮かべて、
「ありがとうございました。あなたのおかげで今日はとても楽しい買い物が出来ました。父にもあなたのことはしっかりと伝えておきますね」
その後、この店員さんは出世街道をひた走り、やがて役員クラスまで成り上がるのだがそれはまた別の話だ。
「どうしますか、勇也君。家でご飯食べますか?」
「いや、さすがに今日は疲れた。帰ってから作り始めたら遅くなるから食べて帰らないか? 簡単なパスタとかでいいなら俺が作るけど……」
そもそも家に帰っても食材もない。ただ幸いなことに冷蔵庫は明日の朝一で届くから冬の今の時期なら一晩くらいは何とかなるだろう。まだスーパーも開いているだろうし、適当に買って帰って作ってもパスタならさほど時間もかからない。
「勇也君が作ってくれるんですか? 疲れているのに……いいんですか?」
「そりゃもちろん、一葉さんの手料理を食べたい気持ちはあるけど今日じゃなくていい。それに……機会なんてこれからたくさんあるんだろう?」
「はい。はい、もちろんです! なら明日は勇也君のために腕を振るっちゃいますから覚悟してくださいね! さぁ、そうと決まれば急いで宮本さんと合流してスーパーに行きましょう! 勇也君の手料理、すごく楽しみです!」
今日一番の笑顔で手を引かれ、俺達は店を後にした。
パスタを作ると言ったのはいいけどどれを作ろうか。一葉さんに気に入ってもらえるだろうか。どんな顔をしてくれるのか楽しみであり不安でもあるが、こういう日が日常になるのかと思うと、気持ちが温かくなった。
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