11.垢バン乙
「は? え?」
間抜けな声しか出てこなかった。垢バンの噂は聞いても、実際どうなるのか聞いたことがなかった。まさか、これが垢バン…?
「え、こわ……」
どうしようもないのに、どうしようと勝手に狼狽えてしまう。
すると、すぐに黒くんの配信にいたナイトさんが配信を開始した通知が来た。
説明と安心感が欲しくて入ってみることにした。
只野人間
「先ほどはどうも」
『あぁ、ただのん、びっくりしたよな~w ついにアイツも垢バンとか、マジ笑えるwww』
大爆笑しているナイトさんが早速教えてくれた。
只野人間
「やっぱりさっきの垢バンの画面だったんすね。初めてだったんでビビりましたw」
ブンちゃん
「結構ヤバイことやってたからしょーがないよね~w」
『女食ってたのは個人の自由としても、未成年はさすがにヤバイよなwww 法律に触れるっつーのwww』
こっちん亀
「ロリコン乙」
ぴーや
「アイツ、23くらいだっけ?」
庄司
「21ってこの前言ってた気がする」
『どっちにしろ戻って来ないんじゃね?www ざまーみろって感じだけどwww』
言いたい放題だ。
陰でこんなことを言われていると知ったら黒くんはどんな反応をするのだろう。
「嫌だなぁ」
信じていたリスナーがこんなんだったら、仲良くしていた人間がこんなんだったら、俺は立ち直れないかもしれない。
『アイツんとこにいれば、おこぼれの女共をゲットできるから最高だったんだけどなぁwww 新しい寄生先探さねーとな』
こっちん亀
「寄生虫乙」
同じ穴の狢、というやつだろうか。黒くんの悪口と、自分がどれだけの人数を経験したかを自慢気に話す面々。
ふと、俺もこっち側だったのかと思いついて、吐き気がした。
『配信で言わなくていいだけなら俺もJKとイイ仲になりてーな』
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「ちょ、まじかよ」
1日のうちに2回も垢バンの現場に立ち会うなんて思いもしなかった。もう、黒くんの配信にいた人間がマークされてるとしか考えられない。俺もしばらくは配信しない方がいいかもしれない。
他の配信に行こうかと思ったが、個人的に仲の良いリスナーが居ないことに初めて気がついた。
あんなに毎日配信して面白おかしくしていたはずなのに、誰も、何も、手元に残っていない。消費したのは自分の日常と、リアル、時間だけだ。
1位を獲るために過激なことをして、目を引いて。面白おかしくピエロに成り下がっていた俺。何が愛の証だ。何が愛されてるだ。あんなに脆くも崩れ去ってしまって。
「あー……。ホント、俺、何してたんだろう」
何もしていないのに、配信しているよりもどっと疲れを感じた。どんよりとした気持ちが肩にのしかかってくる。
黒くんの配信でしばらく聞き専をして、また1位を目指そうかとも考えていたが、もう無駄なことに思えて空しくなった。
「自分のせい、か……」
クレしんさんたちと仲良くしていた頃が懐かしい。あの頃はただただ純粋に楽しかった。それが今では……。
明日も仕事だ。考えるのはやめて寝なければ。
幾分過ごしやすくなってきた夜の空気が、俺の心にも入ってきていた。
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