6.お前のせいだ

「だいたい努力しなかったから派遣なんかに甘んじてるんだろ? それを社会のせいだ、誰かのせいだって押し付けてるのってダサくね?」


ラッキー煎餅

「男のお前なんかに分かるかよ。それにしても相変わらず、配信では強気だねぇw ここではヨイショしてくれるオトモダチがたくさんいるもんねぇwww」


Kiki

「使い捨ての駒って、それはひどいと思う」


月(るな)

「男も女も関係ないですよ。哀れですね」


たっちゃん

「努力してねーわけじゃねーよ! 努力したってどうしようもねーこともあるんだっつーの」


ふーみん

「そんな荒らし放っておいて、早くブロックしちゃおうよ」


「なんてったってここは俺の配信だからな。お前にデカい顔させらんねーよ。分かったらとっとと落ちろ」


ラッキー煎餅

「おー怖い怖いwww ところで、鼻の下伸ばして、女を食いまくった感想はどうだった? あれからリア凸何回したんだ? それが女を食った回数だろ? さぞかし、美味しい思いをしたんだろうなぁwww」


月(るな)

「只野さんはそんな人じゃありません」


とりちぃ

「アヤメちゃんに聞けば分かるんじゃない?」


ぴよち

「カナコともリア凸してたわよ・ネ?」


 真偽を確かめようとする声が多くなってくる。


 お前らは俺の味方でいればいいんだよ。なに確かめようとしちゃってんの?


 せっかく手に入れたのに、どうして言うことを聞入れくれないんだ。お前らの大好きな只野人間が攻撃されてるんだぞ。もっと庇ってくれよ。


呑兵衛@酒に呑まれる全ての人に愛を

「お酒のせいだよ、全ては酒が悪いのさ。おじさんそうして生きてきた」


ラッキー煎餅

「お前が1位じゃなかったらお前にはなんの価値もないその他大勢だ。無価値だ。お前がたまたま1位だったから、ブーストを換金した金があったから、だから女が集まった。たったそれだけだぞ? 愛されてるなんて、本気で思ってた?w どこまでも幸せな脳みそしてるねぇwww」


麗華

「もうやめよう。そんなの聞きたくないよ」


ななか

「ただのん、なんか言ってよ」


 何も答えられない。女と遊んでいたことは本当のことだし、換金した金で美味しい思いもたくさんした。これを失うわけにはいかない。


 背後で陽気なBGMだけが虚しく流れていく。


ラッキー煎餅

「あら?w 本当のことだから、なんにも言えなくなっちゃった?w リスナー裏切って、陰で好き放題女食ってたなんて大問題だぜwww しかも、リアルでは彼女まで作ってさw ま、もうフラれたから時効っしょwww」


黒夜/低音系ボイス

「おいおいw どーすんだよ、この空気w ただのん、がんばれwww」


Kiki

「ただのん、本当なの?」


ラッキー煎餅

「短い夢だったねぇw ねぇ、今どんな気持ち?w 本当のことバラされて、信じてたリスナーからも疑われてさwww」


ふーみん

「ただのん、ちゃんと言い返してよ、信じられないよ」


とりちぃ

「ちょっと女の子のこと見下してるところ、あったよね」


麗華

「もう庇いきれないです、私も信じられなくなってきた」


「いや、待ってくれよ。俺の話より、この荒らしの話を信じる訳? みんな、俺よりそいつの話の方が信じられるっていうの? 俺がどういう奴かって、みんな配信来てくれてるし、短い付き合いでもないんだから、よく分かるでしょ? それなのに、荒らしの方をとるのかよ…!」


 思わず声を荒げてしまった。俺は愛されている。大丈夫だ。きっと、大丈夫。


月(るな)

「違うって一言言ってください。私はそれで信じます」


パプリカ

「違うって言ってくれればいいんだよ」


ななか

「リア凸した人も擁護してよ」


アヤメ

「だって……」


ラッキー煎餅

「言えねーよなぁw だって本当のことだもんなw 言ったら、大事な大事な金ヅルリスナー失っちゃうもんなぁwww もしくは食いたい放題の女リスナーをさぁwww」


 もう限界だった。


「うるせえんだよ! ごちゃごちゃ言いやがって! 派遣切られた腹いせか? ちょっと可愛いからって調子に乗ってんじゃねえよ。誰にでも愛想ふりまいて、良い顔してゴマ摺ってさぁ。会社にとって都合のいい派遣のくせにデカい顔してんなって感じだわ」


「お前こそ今どんな気分だよ? チヤホヤされてたお前は仕事クビになって、お前が見下してた男たちは会社に守られてんだぜ。さぞ悔しいだろうな。惨めにこんな配信アプリで執着して、暴露して、スッキリしたか?」


「紺野と仲が良いのか知らんけど、人の幸せ壊してそんなに楽しいか? それとも女同士のベタベタな友情ってやつですか? 余計なこと言いやがって。お前のせいで全部台無しだよ。可愛いのは顔だけで性格はクッソ悪いのな」


 一気にまくしたてて、ワインを煽った。口の端を右手で拭った。


「お前なんかいらねーんだよ。会社からも、この俺の配信にも。いらない人間ってわけ。無様に捨てられて、全くカワイソウだぜ」


 それだけ言うと、ラッキー煎餅をブロックした。


「あー、ムカつく。まじなんなんだよ」


 またワインをごくりと飲んだが、気分が晴れない。


 動かないコメント欄を数秒眺めて、またふつふつと感情が湧いてきた。

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